移乗用介助ベルトの選び方|抱え上げ介助との違い|移乗・段差をラクにする介助用品【全4回・第2回】

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ベッドから車いすへ移るとき、介助する人が利用者の脇や腕、ズボンの腰部分をつかんでいないでしょうか。

つかむ場所が見つからないため、利用者の身体を正面から抱え込み、そのまま持ち上げるように移乗させている家庭もあるかもしれません。

しかし、人の身体は持ち上げやすい形をしていません。

無理な抱え上げ介助を繰り返すと、介助者の腰や肩に大きな負担がかかります。利用者にとっても、脇や腕を強く引っ張られることで、痛みや皮膚の傷、関節への負担につながる可能性があります。

このような移乗介助で、身体を安定して支えるための「持ち手」をつくる福祉用具が、移乗用介助ベルトです。

ただし、移乗用介助ベルトは、利用者を持ち上げるためのベルトではありません。

使える人の条件を確認せず、ベルトだけを強く引っ張ると、転倒やベルトの破損につながる危険があります。

この記事では、移乗用介助ベルトの役割、抱え上げ介助との違い、向いている人の条件、購入前に確認したい選び方を詳しく説明します。

目次

移乗用介助ベルトとは

移乗用介助ベルトは、利用者の腰まわりに装着し、介助者がベルトの持ち手を握って身体を支える福祉用具です。

「介助ベルト」「トランスファーベルト」「移乗ベルト」「歩行介助ベルト」などと呼ばれることもあります。

主に、次のような場面で使用されます。

・ベッドから車いすへの移乗
・車いすからトイレへの移乗
・いすからの立ち上がり介助
・立った状態で向きを変える介助
・歩行時のふらつきを支える介助
・車いすへゆっくり座るための介助

移乗用介助ベルトの役割は、介助者が利用者の衣服や腕を直接つかむ代わりに、安定した持ち手をつくることです。

腰まわりを支えることで、利用者の重心移動を助けたり、立ち上がる方向を誘導したりしやすくなります。

海外の労働安全衛生機関であるOSHAも、移乗用ベルトは、ある程度足に体重をかけられる人の立ち上がり、ベッドからいすへの移乗、歩行などを支えるために使うものとしています。

移乗用介助ベルトは「持ち上げる道具」ではない

移乗用介助ベルトを使ううえで、最も重要なのがこの点です。

移乗用介助ベルトは、利用者の全体重をベルトだけで支え、空中へ持ち上げる道具ではありません。

ベルトを強く上へ引っ張ってしまうと、利用者の腹部や肋骨まわりが圧迫されます。ベルトが胸や脇の下までずり上がり、痛みや皮膚損傷につながる可能性もあります。

製品によっては、「対象者を持ち上げることには使用しない」と明記されています。OSHAの介助指針でも、移乗用ベルトを利用者の持ち上げに使用してはいけないとしています。

移乗用介助ベルトは、利用者が自分で行う立ち上がりや重心移動を、介助者が補助するための道具です。

利用者が足にある程度力を入れ、上半身を起こし、介助者の支えに合わせて動くことが基本になります。

抱え上げ介助との違い

抱え上げ介助

抱え上げ介助では、介助者が利用者の脇や背中、腰などに腕を回し、身体の重さを直接受け止めます。

利用者の足に十分な力が入らない場合、介助者が利用者の体重の多くを支えることになります。

介助者は前かがみや中腰になりやすく、利用者の向きを変えるときには腰をひねる動作も加わります。

厚生労働省は、全介助が必要な人を人力で抱え上げることは原則として避け、身体状態に合わせて移動用リフト、スライディングボード、スタンディング機器などを検討するよう示しています。

移乗用介助ベルトを使った介助

移乗用介助ベルトでは、介助者が利用者を丸ごと持ち上げるのではなく、ベルトの持ち手を使って身体の傾きや重心移動を支えます。

利用者が前へ重心を移し、自分の足で床を押して立ち上がる動作を補助する使い方が基本です。

利用者の身体を介助者の近くで支えられるため、衣服を引っ張ったり、脇の下へ腕を差し込んだりする介助を減らせる可能性があります。

ただし、介助ベルトを装着しただけで、重い介助が安全になるわけではありません。

利用者が足に体重をかけられない場合や、座った姿勢を保てない場合は、介助ベルトだけで移乗させるのは危険です。

移乗用介助ベルトが向いている人

移乗用介助ベルトが向いているかどうかは、病名や年齢だけでは判断できません。

実際の立ち上がり動作、足の力、座る力、理解力、体調などを確認する必要があります。

足にある程度体重をかけられる人

移乗用介助ベルトは、足にある程度体重をかけられる人の立ち上がりや移乗を補助する道具です。

手すりや介助者につかまれば立ち上がれる人や、短時間であれば立った姿勢を保てる人などが対象になります。

完全に一人で立てなくても、利用者自身が足で床を押し、介助者の支えに合わせて動ける場合は、介助ベルトが役立つ可能性があります。

OSHAも、移乗用ベルトの対象として、部分的な介助が必要で、ある程度の荷重能力があり、介助に協力できる人を挙げています。

座った姿勢をある程度保てる人

立ち上がる前には、ベッドやいすの端で姿勢を整える必要があります。

座った時点で身体が大きく倒れてしまう人や、介助者が手を離すとすぐにずり落ちてしまう人は、介助ベルトだけでは安全を確保できないことがあります。

座位を保てない人や下肢に力が入らない人に対してベルトを使うと、介助者が無理に身体を引き上げることになり、利用者に恐怖や痛みを与える可能性があります。テクノエイド協会の資料でも、そのような状態では立位補助用のベルトを利用できないと説明されています。

介助者の声かけに合わせて動ける人

安全に立ち上がるには、利用者と介助者が動くタイミングを合わせる必要があります。

「少し前へ身体を倒してください」

「足を引きましょう」

「合図に合わせて立ちましょう」

このような声かけを理解し、ある程度動きを合わせられる人は、介助ベルトを使用しやすくなります。

認知機能に低下がある場合でも、毎回同じ声かけや手順で動ける人は使用できる可能性があります。ただし、急に立ち上がる、身体を反らす、介助者の手を振り払うなど、動きを予測しにくい場合は専門職による評価が必要です。

立った状態で膝が大きく崩れない人

立ち上がった直後に膝が急に折れる人は、介助ベルトだけでは身体を支えきれないことがあります。

介助者がベルトを持っていても、利用者の全体重が突然かかると、二人とも転倒する危険があります。

膝折れが頻繁に起こる場合は、スタンディングリフトや移動用リフトなど、身体全体を支えられる福祉用具を検討します。

移乗用介助ベルトが向いていないケース

次のような場合は、家族だけで判断せず、理学療法士、作業療法士、看護師、福祉用具専門相談員などに相談してください。

足にほとんど力が入らない

足に体重をかけられず、介助者が身体の重さの大部分を支えなければならない人には、介助ベルトだけでの立位移乗は向いていません。

全介助が必要な場合は、移動用リフトなどの利用を検討します。座位を保てる場合は、第1回で紹介した移乗ボードを使った座位移乗が選択肢になることもあります。

座位を保てない

ベッドの端や車いすで座った姿勢を保てない人は、立ち上がる前に転落する危険があります。

介助ベルトは身体全体を包み込むものではないため、体幹を支えられない人の安全を確保することはできません。

腹部や腰部に治療上の問題がある

腹部や腰部の手術直後、腹部大動脈瘤などがある人には、移乗用介助ベルトが適さないことがあります。

また、腹部に傷、強い痛み、医療機器などがある場合も、ベルトを巻く位置や圧迫が問題になる可能性があります。

OSHAの指針でも、最近腹部や背中の手術を受けた人、腹部大動脈瘤がある人などには適さない場合があるとしています。使用前に医師や看護師へ確認してください。

皮膚が非常に弱い

移乗用介助ベルトは、身体に密着させて使用します。

皮膚が薄く傷つきやすい人、腰まわりに傷や発赤がある人、ベルトの圧迫を感じにくい人は注意が必要です。

基本的には素肌へ直接装着せず、衣服の上から使用します。衣服を一枚挟むことで、皮膚のこすれを減らせます。

移乗用介助ベルトの選び方

移乗用介助ベルトは、見た目が似ていても、幅、持ち手、バックル、素材、対応サイズなどが異なります。

価格だけで選ばず、利用者と介助者の両方が使いやすいものを選びましょう。

利用者の腰まわりに合うサイズを選ぶ

最初に確認したいのが、適応するウエストサイズです。

ベルトが大きすぎると、介助中に胸や脇の下へずり上がる可能性があります。

小さすぎると、腹部を強く圧迫したり、バックルが完全に固定できなかったりします。

同じ製品でも、S・M・Lなど複数のサイズが用意されていることがあります。

利用者が普段着る衣服の厚さも考慮して、実際に使用する状態で腰まわりを測りましょう。

締めた後にずれにくいものを選ぶ

移乗用介助ベルトは、介助中に上下へ大きく動かない程度に装着する必要があります。

ただし、きつく締めればよいわけではありません。

腹部を圧迫せず、呼吸や動きを妨げないことも大切です。

体格や腹部の形によっては、座っているときと立ったときでベルトの位置が変わります。購入前に試着し、立ち上がり動作まで確認できると安心です。

介助者が握りやすい持ち手を選ぶ

持ち手には、縦向き、横向き、斜め向きなどがあります。

複数の方向に持ち手が付いている製品は、介助者の立ち位置や移乗方向に合わせて握る場所を変えられます。

ベッドから車いすへの移乗と、歩行介助では、握りやすい持ち手の位置が異なることがあります。

持ち手に厚みやクッション性があるものは握りやすく、介助者の指への食い込みを減らせる可能性があります。OSHAも、パッド付きの持ち手は握りやすく、身体を安定させやすいとしています。

ベルトの幅とクッション性を確認する

細いベルトは軽量で扱いやすい一方、引く力が狭い範囲に集中しやすくなります。

幅が広く、内側にクッションが入っているものは、腰まわりを広い面で支えやすくなります。

ただし、幅が広すぎると、肋骨や骨盤に当たったり、小柄な人の身体に合わなかったりすることがあります。

利用者の身長や胴の長さも含めて選びましょう。

バックルを確実に固定できるものを選ぶ

バックルには、差し込み式、面ファスナー式、金属バックル式などがあります。

介助者が簡単に着脱できることは大切ですが、移乗中に外れないことが最優先です。

バックルを留めた後は、軽く引いて確実に固定されているか確認します。

利用者が無意識にバックルへ触れる場合は、自分で簡単に外してしまわない構造かどうかも確認しましょう。

最大使用者体重を確認する

移乗用介助ベルトには、製品ごとに最大使用者体重が設定されている場合があります。

利用者の体重が適応範囲に入っているか、必ず取扱説明書で確認してください。

最大使用者体重を超えていなくても、ベルトで全体重をつり上げてよいわけではありません。

サイズ、最大使用者体重、使用目的のすべてが合っていることが必要です。

使用場所に合った素材を選ぶ

室内での移乗に使う製品と、浴室で使用できる製品は同じとは限りません。

入浴介助に使用する場合は、水にぬれても固定力が保たれ、乾燥や洗浄がしやすい入浴対応製品を選びます。

一般的な布製ベルトを浴室で使うと、持ち手が滑ったり、乾きにくく衛生管理が難しくなったりすることがあります。

使用できる場所と洗濯方法は、製品の取扱説明書で確認しましょう。

危険な使い方

ベルトを持って身体をつり上げる

最も避けたい使い方です。

利用者の足が床から離れるほどベルトを引き上げると、ベルト、バックル、縫い目に大きな力がかかります。

テクノエイド協会には、入浴用介助ベルトを持って利用者を引き上げた際、ベルトが破断した事例が報告されています。持ち上げ介助などの誤った使用は、破断リスクを高めると説明されています。

脇の下や胸に巻く

移乗用介助ベルトは、原則として腰まわりに装着します。

脇の下や胸に巻いて強く引くと、肋骨や胸部を圧迫する危険があります。

移乗中にベルトが上へずれてきた場合は、そのまま続けず、一度座り直して装着位置やサイズを確認します。

ベルトが緩いまま使う

ベルトと身体の間に大きな隙間があると、立ち上がった瞬間にベルトがずれます。

介助者が持ち手を引いたときだけ急に締まり、利用者が痛みを感じることもあります。

装着後は、ベルトが回転したり、上下に大きく動いたりしないか確認します。

バックルやベルトの端をつかむ

介助者は、製品に設けられた持ち手を握ります。

バックル部分、余ったベルトの端、面ファスナー部分などをつかむと、介助中に外れる可能性があります。

ベルトだけに頼って移乗する

車いすのブレーキがかかっていない、フットサポートが残っている、床に物が置かれているといった環境では、介助ベルトがあっても転倒を防げません。

移乗前には、車いすのブレーキ、足の位置、座面の高さ、移乗する方向、周囲のスペースを確認します。

介助ベルトは安全な環境の代わりになる道具ではありません。

劣化したベルトを使い続ける

布やナイロン製のベルトは、使用や洗濯、保管によって少しずつ劣化します。

次のような状態が見られた場合は、使用を中止します。

・縫い目がほつれている
・持ち手が伸びている
・生地が薄くなっている
・バックルにひびがある
・面ファスナーが簡単に外れる
・強い変色や硬化がある
・メーカーが示す耐用期間を超えている

テクノエイド協会も、生地や縫い目の状態を定期的に確認する必要があるとしています。

使用前に確認したいチェックポイント

移乗を始める前に、次の項目を確認しましょう。

□ 利用者の体調は普段と変わらないか
□ めまい、痛み、強い疲労がないか
□ 足にある程度体重をかけられるか
□ 座った姿勢を保てるか
□ 腰や腹部に傷や痛みがないか
□ ベルトのサイズが合っているか
□ ベルトを衣服の上から装着しているか
□ バックルが確実に固定されているか
□ 生地、縫い目、持ち手に傷みがないか
□ 車いすのブレーキがかかっているか
□ フットサポートなどが移乗の邪魔になっていないか
□ 足を安定して床へ置けているか
□ 介助者と利用者が動くタイミングを確認したか
□ 一人で安全に介助できる状態か

一つでも不安がある場合は、無理に移乗を始めないことが大切です。

購入前に専門職へ確認したい理由

移乗用介助ベルトは、腰まわりのサイズだけでは選べません。

利用者がどの程度足に力を入れられるか、どちら側へ移乗しやすいか、膝折れがないか、介助者がどこに立つかによって、適した製品や介助方法が変わります。

購入前には、理学療法士、作業療法士、福祉用具専門相談員などに、実際の移乗動作を確認してもらうことをおすすめします。

可能であれば、普段使用しているベッド、車いす、トイレなどで試してください。

施設や病院でうまく使えたとしても、自宅のベッドの高さや家具の配置が異なれば、同じ方法では安全に移乗できないことがあります。

また、身体機能は変化します。

以前は介助ベルトで立てていた人でも、足の力が弱くなったり、膝折れが増えたりした場合は、移乗方法を見直す必要があります。

まとめ|介助ベルトは利用者の動きを支える道具

移乗用介助ベルトは、利用者の腰まわりに安全な持ち手をつくり、立ち上がりや方向転換、着座を支える福祉用具です。

衣服、腕、脇などを直接つかむ介助を減らし、利用者の重心移動を補助しやすくなります。

ただし、利用者をベルトで持ち上げる道具ではありません。

安全に使用するには、次の条件を確認する必要があります。

・利用者が足にある程度体重をかけられる
・座った姿勢をある程度保てる
・介助者の動きに合わせられる
・ベルトのサイズと使用目的が合っている
・持ち手とバックルに異常がない
・腹部や腰部にベルトを使用できない事情がない
・介助者が利用者を持ち上げずに支えられる

足に力が入らない人や、全介助が必要な人を、介助ベルトだけで移乗させるのは危険です。

その場合は、移乗ボード、スタンディングリフト、移動用リフトなど、身体状態に合った別の福祉用具を検討しましょう。

※この記事は一般的な情報をまとめたものです。実際に使用できるかどうかは、利用者の病気、障害、体格、皮膚状態、認知機能、使用環境によって異なります。初めて使用するときは、医療・リハビリ・福祉用具の専門職に確認してください。


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この記事を書いた人

やんち
出歩くのが好きなやんちが、外出が困難な方に役立つ色んな情報を発信しています。

仕事:技士をしていましたが現在事務職です。車いすユーザーです。
   手動装置のクルマと電車で通勤してます。
趣味:テニスと英語と美術館巡り
特技:ラジオドラマ脚本は5分番組から1時間番組まで多数放送化されました。
資格:福祉車両取扱士

関西を中心に出来る限り実体験ベースで検証記事を書いています。

Xでは日常で気づいたことを書いています。

Substackでは「やんち」名義で、テーマを深掘りしています。

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