事故や病気によって手足が動かしにくくなったとき、
「もう車を運転できないのでは?」
「障がい者手帳を取得したら、免許を返納しなければならない?」
「次の免許更新は、普通に手続きできるのだろうか」
と不安になる方は少なくありません。
最初にお伝えすると、障がい者になったからといって、運転免許が自動的に取り消されたり、更新できなくなったりするわけではありません。
身体の状態に合った運転補助装置を使ったり、運転できる車の条件を免許証に付けたりすることで、運転を続けられる場合があります。
これから新しく免許を取得する方も、必要な条件を確認したうえで、補助装置付きの車を使って教習や試験を受けられる可能性があります。
ただし、大切なのは、自分だけで「まだ運転できる」と判断しないことです。
身体の状態や運転操作に変化を感じたら、早めに運転免許センターの安全運転相談窓口へ相談しましょう。
この記事では、進行性の下肢障がいがある僕自身の経験を交えながら、次の内容を解説します。
- 障がい者になった後の運転免許更新
- 安全運転相談と適性検査
- 免許証に付く運転条件
- 実際に適性検査を受けた体験
- 障がい者が新しく免許を取得する流れ
- 免許取得費などの助成制度
結論|障がい者手帳を取得しても、免許が自動的に取り消されるわけではない
障がい者手帳と運転免許は、別の制度です。
そのため、障がい者手帳を取得したことや、手帳の等級だけを理由に、運転免許が自動的に取り消されるわけではありません。
運転を続けられるかどうかは、障がい名や手帳の等級だけでなく、実際の身体機能、病気の症状、補助装置を使用した場合の操作能力などを含めて個別に判断されます。
警察庁も、身体の障がいや病気による症状が運転へ与える影響は人によって異なり、免許に一定の条件を付けることで補える場合があると案内しています。
例えば、足でアクセルやブレーキを操作できなくなっても、手動運転装置を使えば安全に運転できる場合があります。
右足でアクセルを操作できない方でも、身体の状態によっては左アクセルを使用できる可能性があります。
「障がいがあるから運転できない」と一律に判断されるのではなく、
どのような装置や条件があれば安全に運転できるか
を個別に確認するのが、安全運転相談や適性検査です。
まずは安全運転相談ダイヤル「#8080」へ
身体の状態や病気の症状によって運転に不安がある方は、都道府県警察の安全運転相談窓口へ相談できます。
全国共通の相談番号は、次のとおりです。
安全運転相談ダイヤル:#8080
「シャープ・ハレバレ」と覚えると分かりやすいでしょう。
電話をかけた場所を管轄する都道府県警察の安全運転相談窓口につながります。
受付時間は原則として平日の執務時間内で、通話料は利用者の負担です。#8080につながらない場合は、住所地を管轄する都道府県警察の相談窓口へ直接連絡します。
相談するのは、免許更新の直前でなくても構いません。
「最近、ブレーキへの踏み替えが遅くなった気がする」
「ハンドルを両手で操作できなくなった」
「手動運転装置が必要かもしれない」
このような段階で相談できます。
むしろ、車を改造したり教習所へ申し込んだりする前に、必要な免許条件を確認することが大切です。
免許更新前に相談したほうがよい人
次のような変化があった場合は、通常の更新手続きを予約する前に、安全運転相談窓口へ連絡しましょう。
- 事故や病気で手足に麻痺が残った
- アクセルからブレーキへの踏み替えが遅くなった
- ペダルを確実に踏めているか不安がある
- ハンドルを両手で操作できなくなった
- 病気が進行し、以前より身体が動きにくくなった
- 聴力や視力に大きな変化があった
- 意識を失う症状や発作があった
- 医師から運転を控えるよう助言された
- 現在の免許条件と身体状態が合わなくなった
- 運転補助装置の導入を検討している
これまで身体の障がいについて適性検査を受けたことがない場合は、更新時に検査が必要になることがあります。
都道府県によっては、免許条件の追加や変更が必要な方は、警察署や一般の更新センターでは手続きできず、運転免許試験場での手続きになる場合があります。
例えば大阪府警も、手足や聴力に障がいがあり、過去にその障がいについて適性検査を受けていない方は、更新前に運転免許試験場へ問い合わせるよう案内しています。
手続きできる場所や予約方法は都道府県によって異なるため、必ず住所地を管轄する警察へ確認してください。
障がい者が免許を更新する基本的な流れ
身体状態が変化した方の免許更新は、おおむね次のように進みます。
1.安全運転相談窓口へ連絡する
まずは#8080、または住所地を管轄する運転免許センターへ連絡します。
電話では、次のような内容を伝えると話が進みやすくなります。
- 現在持っている免許の種類
- 障がいや病気の内容
- いつ頃から身体状態が変わったか
- 現在も運転しているか
- どの運転操作に不安があるか
- 現在使用している補助装置
- 免許証に記載されている条件
- 免許更新の期限
相談内容によっては、運転免許試験場へ行く日時を予約することになります。
2.運転免許試験場で身体状態や操作能力を確認する
指定された日時に運転免許試験場へ行き、担当者へ身体状態や現在の運転方法を説明します。
確認される内容は、障がいの種類や身体状態によって異なります。
手足の動き、ハンドル操作、アクセル・ブレーキ操作などを確認するほか、必要に応じて適性検査機器やシミュレーターを使用する場合があります。
病気の症状によっては、医師の診断書や主治医の意見を求められることもあります。
安全運転相談では、相談者の具体的な症状を確認し、必要に応じてシミュレーターなどで運動機能を確認したうえで、免許条件の付与などが検討されます。
3.必要な免許条件を判断してもらう
相談や検査の結果、安全に運転するために必要な条件が判断されます。
例えば、次のような条件が免許証に記載される場合があります。
- AT車に限る
- アクセル・ブレーキは手動式に限る
- 左アクセルに限る
- 補聴器を使用すること
- 特定後写鏡を使用すること
条件は一人ひとり異なります。
同じ障がい名や同じ手帳等級であっても、必ず同じ条件になるわけではありません。
4.必要に応じて車へ運転補助装置を取り付ける
免許条件に運転補助装置が指定された場合は、その条件に合った車を用意します。
今乗っている車を改造する方法と、運転補助装置付きの車を購入する方法があります。
ここで注意したいのは、適性相談を受ける前に車の改造を注文しないことです。
先に装置を取り付けてしまうと、身体状態に合わなかったり、最終的に付いた免許条件と一致しなかったりする可能性があります。
順番としては、
安全運転相談を受ける
↓
必要な免許条件を確認する
↓
条件に合った車や補助装置を選ぶ
となります。
5.免許更新手続きを行う
必要な条件が決まった後、視力検査や更新時講習などを受け、免許を更新します。
身体状態が変わらず、現在の免許条件にも変更がない場合は、通常の更新手続きで進められることがあります。
一方、新しく条件を付ける場合や、現在の条件を変更する場合は、運転免許試験場での手続きが必要になることがあります。
適性検査を受けた僕の体験
ここからは、進行性の下肢障がいがある僕自身の体験です。
僕の場合は、障がいの進行に合わせて、何度か適性相談や検査を受けました。
初期の検査では、アクセルペダルからブレーキペダルへ素早く踏み替えられるかを確認する反応テストを受けました。
ランプが点灯したら、アクセルからブレーキへ踏み替える検査です。
一度失敗しただけで即座に「不適格」とされるような雰囲気ではなく、担当者と話をしながら、何度か動きを確認しました。
当時はまだ足の機能が残っていたため、免許に条件を付けずに更新できました。
ただ、僕自身はペダルの踏み替えに不安を感じていました。
そこで、免許条件として指定される前に、安全を優先して手動運転装置を取り付けました。
その後、障がいが進行して足での操作ができなくなり、次の更新時には、
「AT車でアクセル・ブレーキは手動式に限る」
という条件が付きました。
ここで僕が伝えたいのは、警察の検査に通ることだけを目標にしてはいけないということです。
検査で問題がないと判断されても、自分自身が運転中に危険を感じるのであれば、早めに補助装置を導入したり、運転する時間や範囲を見直したりする必要があります。
「免許上は運転できる」と「実際に安全に運転できる」は、必ずしも同じではありません。
運転免許を維持することよりも、安全に止まれることのほうが大切です。
病気の症状は質問票へ正しく記載する
免許の新規申請や更新申請では、病気の症状などについての「質問票」を提出します。
質問項目に該当する場合は、職員から症状の内容や頻度などを詳しく確認されることがあります。
質問票では、例えば次のような症状について尋ねられます。
- 病気などを原因として意識を失ったことがある
- 発作的に身体の全部または一部がけいれん、麻痺したことがある
- 十分に睡眠を取っているのに、日中眠り込むことが頻繁にある
- 医師から免許取得や運転を控えるよう助言された
該当項目があるからといって、直ちに免許が取り消されるとは限りません。
症状の内容、頻度、治療状況、運転への影響などを確認したうえで、個別に判断されます。
不利になることを恐れて症状を隠すのではなく、正しく申告し、必要に応じて安全運転相談を利用してください。
自分だけでなく、同乗者や周囲の人の命にも関わることです。
障がい者が新しく運転免許を取得する流れ
身体に障がいがある方でも、必要な操作ができると判断されれば、新しく運転免許を取得できる可能性があります。
ただし、最初に自動車教習所へ申し込むのではなく、先に運転免許センターへ相談することをおすすめします。
大阪府警も、病気などによって運転に不安がある方は、免許試験の申請や教習所への入所を行う前に、相談窓口へ問い合わせるよう案内しています。
1.安全運転相談を受ける
まず、現在の身体状態でどの操作ができるのか、どのような補助装置や免許条件が必要になるのかを確認します。
これから免許を取得する方も、安全運転相談窓口を利用できます。
2.必要な補助装置や条件を確認する
身体状態に応じて、次のような装置や条件が検討されます。
- 手動運転装置
- 左アクセル
- 旋回ノブ
- 補聴器
- 特定後写鏡
- 身体を安定させる装置
- 足が通常のペダルに干渉するのを防ぐ装置
この段階で決まるのは、特定の商品名ではなく、安全に運転するために必要な操作方法や免許条件です。
3.対応できる自動車教習所を探す
手動運転装置付きの教習車を用意している自動車教習所もあります。
ただし、すべての教習所に補助装置付きの教習車があるわけではありません。
必要な装置が特殊な場合は、自分の身体に合わせて改造した車両を使い、教習や試験を受けるケースもあります。
入校前に、次の点を確認しましょう。
- 必要な補助装置付きの教習車があるか
- 車いすから運転席へ移乗できるか
- 車いすを教習中に保管できるか
- 介助者の同行が必要か
- 教習所内のトイレや移動経路を利用できるか
- 自分の車を持ち込んで教習できるか
運転免許センターと教習所の両方へ確認することが大切です。
4.教習と試験を受ける
安全運転相談で確認された条件に合う車両を使い、一般の免許取得者と同じように学科教習、技能教習、試験を受けます。
免許取得後は、安全運転に必要な車両や装置の条件が免許証に記載されます。
代表的な運転補助装置
ここでは、代表的な装置だけを簡単に紹介します。
手動運転装置
主に下肢障がいのある方が、手でアクセルとブレーキを操作するための装置です。
一般的なタイプでは、片手でレバーを押したり引いたりしてアクセルとブレーキを操作します。
ハンドルを片手で回しやすくする旋回ノブと組み合わせることがあります。
左アクセル
右足でアクセルを操作できない方が、左足で操作するための装置です。
通常のアクセルペダルとの干渉や誤操作を防げる構造になっているか、身体状態に合わせて確認する必要があります。
旋回ノブ
片手でハンドルを回しやすくするための装置です。
ノブの位置や形状が身体に合わなければ、かえって操作しにくくなることがあります。
実際に運転姿勢を取り、無理なく操作できるか確認しましょう。
運転補助装置や車の選び方については、別記事で詳しく解説します。
自分に合った車と車いす収納も確認しよう
必要な運転補助装置が分かったら、次は身体に合った車を選びます。
手動運転装置を取り付けられるかだけでなく、運転席へ無理なく乗り移れるか、車いすを一人で収納できるかも重要です。
車選び、運転補助装置、車いす収納、改造費については、次の記事で詳しく解説しています。
障がい者が運転しやすい車の選び方|手動運転装置・車いす収納・改造費を解説
簡易型の手動運転装置を使うときの注意点
通常の車へ短時間で取り付けられる、簡易型の手動運転装置もあります。
家族と共用する車、レンタカー、修理中の代車などで使える製品もあり、便利な装置です。
ただし、
装置を物理的に取り付けられることと、その車を免許条件上、合法かつ安全に運転できることは別です。
購入・使用する前に、次の点を確認してください。
- 自分の免許条件に適合しているか
- 使用する車種へ安全に取り付けられるか
- ブレーキを十分な力で操作できるか
- 運転中に装置がずれないか
- 身体を安定させた状態で操作できるか
- 必要な練習や指導を受けているか
- レンタカー会社や車両所有者の了承を得ているか
自己判断だけで使用せず、運転免許センター、装置の販売会社、車両改造業者へ相談しましょう。
免許取得費や自動車改造費の助成制度
身体障がい者の運転免許取得費や、本人が運転する車の改造費について、自治体が助成制度を設けている場合があります。
厚生労働省の地域生活支援事業でも、「自動車運転免許取得・改造助成」は、市町村が実施できる社会参加支援事業の一つに位置付けられています。
ただし、この制度は全国一律ではありません。
次の内容は自治体によって異なります。
- 制度を実施しているか
- 対象となる障がいの種類や等級
- 所得制限
- 助成される金額
- 免許取得と車両改造のどちらが対象か
- 申請に必要な書類
- 申請期限
特に注意したいのが、申請のタイミングです。
教習所へ入校した後や、車の改造を注文した後では、助成対象にならない場合があります。
契約や支払いをする前に、お住まいの市区町村の障がい福祉担当窓口へ確認してください。
問い合わせるときは、次のように尋ねると伝わりやすくなります。
「身体障がい者の自動車運転免許取得費助成はありますか」
「本人が運転する車の自動車改造費助成はありますか」
「教習所への申し込みや、車の発注前に申請が必要ですか」
よくある質問
障がい者手帳を取得したら、免許を返納しなければなりませんか?
手帳を取得したことだけを理由に、自動的に返納が必要になるわけではありません。
ただし、運転操作に影響する身体機能の変化や病気の症状がある場合は、安全運転相談を受けてください。
免許更新のはがきが届くまで待ってもよいですか?
身体状態が変わっている場合は、更新案内を待たずに相談できます。
現在の免許条件と身体状態が合わないまま運転を続けるのは危険です。
早めに#8080、または住所地を管轄する運転免許センターへ相談しましょう。
障がい者手帳の等級で免許条件が決まりますか?
手帳の等級だけで免許条件が決まるわけではありません。
実際の身体機能や病気の症状、補助装置を使った場合の操作能力などを含めて個別に判断されます。
適性検査を受けたら、免許を取り消されませんか?
適性検査は、免許を取り消すためだけの検査ではありません。
どのような条件や補助装置があれば、安全に運転を続けられるかを確認する目的もあります。
ただし、安全な運転が難しい状態と判断された場合には、免許の停止や取消しなどの対象になる可能性があります。
車を先に改造してもよいですか?
先に改造することはおすすめしません。
まず安全運転相談を受け、必要な免許条件と補助装置を確認してください。
身体状態や免許条件と合わない装置を付けると、せっかく改造しても使用できない可能性があります。
新しく免許を取る場合も#8080へ相談できますか?
相談できます。
教習所へ入校する前に、安全運転相談窓口へ連絡し、必要な補助装置や免許条件を確認しましょう。
まとめ|「免許を残すこと」より「安全に運転できること」が大切
障がい者になったからといって、直ちに運転免許を失うわけではありません。
身体状態に合った運転補助装置を使用し、必要な条件を免許証に付けることで、運転を続けられる可能性があります。
これから免許を取得する方も、安全運転相談を受けたうえで、補助装置付きの教習車などを使って免許取得を目指せる場合があります。
大切なのは、次の順番です。
安全運転相談を受ける
↓
自分に必要な免許条件と補助装置を確認する
↓
条件に合った教習所や車を探す
↓
十分に練習してから運転する
安全運転相談の全国共通ダイヤルは、#8080です。
車を運転できることは、通院、通勤、買い物、家族との外出など、生活の選択肢を大きく広げてくれます。
一方で、無理をして運転を続ければ、自分だけでなく周囲の人の命にも関わります。
僕自身、免許の条件が付く前に、運転への不安を感じて手動運転装置を導入しました。
検査に通るかどうかだけではなく、自分が本当に安全に止まれるかを考えたからです。
「免許があるから運転する」のではなく、「安全に運転できるから運転する」。
障がいや病気によって運転に少しでも不安を感じたら、一人で悩まず、まずは安全運転相談窓口へ相談してください。

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