福祉車両に車いすを乗せ、固定ベルトを締める。
毎日の送迎で繰り返していると、操作にも少しずつ慣れてきます。
しかし、慣れてきた頃ほど気をつけたいのが、
「車いすは固定したから、もう大丈夫」
と思ってしまうことです。
福祉車両に車いすのまま乗車する場合、確認しなければならないのは、車いすが動かないことだけではありません。
大切なのは、次の2つです。
- 車いす本体が、車両に確実に固定されていること
- 車いすに乗っている本人が、シートベルトで守られていること
この2つは似ているようで、役割がまったく違います。
この記事では、スロープ車に車いすのまま乗車するときの固定について、図解を中心に分かりやすく説明します。
なお、車いすから通常の座席へ移乗し、空の車いすだけを荷室に積む場合は、今回とは別の「荷物としての固定」が必要です。

車いすの固定は「前・後ろ・本人」の3つに分けて考える
まず、スロープ車における車いす固定の基本構造を見てみましょう。
【図解1】スロープ車における車いす固定の基本構造
図解の構成
車内を上から見た図にして、車いすの前後に固定装置を描きます。
- 前側左右:ウインチベルト・セーフティベルト
- 後側左右:固定ベルト・フック・ワイヤーなど
- 車いす利用者:車いす乗車者用3点式シートベルト
図の中心には、次の言葉を入れます。
車いすを固定する装置と、人を守るシートベルトは別
図の下には、注釈を入れておきましょう。
※固定装置の形状、フックを掛ける位置、操作方法は、車種・年式・車いすによって異なります。
多くのスロープ車では、前側のウインチベルトで車いすを車内へ引き上げ、そのまま前方の保持に使用します。
車いすが所定の位置まで入ったら、後ろ側の固定ベルトやフックを車いすへ掛け、前後から動かないように固定します。
Honda N-BOX車いす仕様車も、ウインチベルトで車いすを引き上げたあと、固定ベルトを掛けてたるみを取り、再度ウインチを作動させて増し締めする手順です。その後、車いす利用者に3点式シートベルトを着用します。(ホンダ)
ダイハツ・タントスローパーでは、電動ウインチに加えて、後ろ側にリトラクタ式の車いす固定ベルトが採用されています。車いす乗車者用の3点式ELRシートベルトも、固定装置とは別に備えられています。(ダイハツ)
ここだけを見ると、スロープ車の固定方法はどの車種も同じように感じるかもしれません。
しかし、実際にはそうではありません。
固定装置の考え方は似ていても、形や操作方法は同じではない
スロープ車の多くは、車いすを前後から保持するという基本的な考え方を採用しています。
ただし、次の部分は車種によって異なります。
- ベルトの本数
- フックの形
- ベルトを引き出す場所
- 手動で締めるか、電動で締めるか
- 後ろ側がベルトなのかワイヤーなのか
- フックを掛ける車いすの位置
例えば、タントスローパーの後部固定装置は、レバーとハンドルで操作するリトラクタ式です。
一方、トヨタ・シエンタの車いす仕様車では、床面から車いす固定装置のフックを取り出し、ワイヤーのねじれがないことを確認して使用する方式があります。(ダイハツ)
したがって、図解では「4本の同じベルトが車いすを固定している」と描かないほうがよいでしょう。
前側は、
ウインチベルト・セーフティベルトなど
後ろ側は、
固定ベルト・フック・ワイヤーなど
と表現しておけば、特定の車種だけに当てはまる図になりません。
車いすのブレーキだけでは、車両への固定にならない
車いすをスロープの前で止めるときや、固定装置を取り付けるときには、車いすのブレーキを使用します。
ただし、車いすのブレーキと、車両の固定装置は別のものです。
ブレーキは、車いすの車輪が日常使用の中で動かないようにするための装置です。
走行中の急ブレーキやカーブ、衝突時に発生する大きな力に対して、車いすを車両へ固定する役割までは担っていません。
そのため、
ブレーキをかけた
=車いすを車両に固定した
とは考えないようにしましょう。
ダイハツの取扱説明書でも、乗車前に車いすの両輪へブレーキをかけたうえで、ウインチベルトと車いす固定ベルトを使って乗車・固定する手順になっています。(ダイハツ)
フックは「掛けやすい場所」ではなく「指定された場所」へ掛ける
固定ベルトを使用するときに迷いやすいのが、フックを車いすのどこへ掛けるかです。
車いすには、たくさんのパイプや部品があります。
そのため、急いでいると、
「ここなら掛けやすそう」
という場所へフックを掛けたくなるかもしれません。
しかし、車いすの部品には、それぞれ別の役割があります。
アームレスト、フットレスト、ブレーキレバー、押し手などは、固定装置を掛けることを想定していない場合があります。
着脱式や可動式の部品にフックを掛けてしまうと、十分に固定できない可能性もあります。
【図解2】固定フックを掛ける場所の考え方
車いすを横から見た図を描きます。
車いす下部の主なフレーム付近に丸印を付けて、
車両・車いすの説明書で指定された固定位置
と表示します。
一方、次の部品には赤い「×」を付けます。
- アームレスト
- フットレスト
- ブレーキレバー
- 車輪
- スポーク
- 押し手
- 取り外し可能な部品
ただし、図には次の注意書きが必要です。
※実際にフックを掛ける位置は、車両および車いすの取扱説明書に従ってください。
大切なのは、図を見ただけで自己判断しないことです。
同じように見える車いすでも、フレームの形や強度、折りたたみ構造は異なります。
Hondaも、車載用車いすを選ぶポイントとして、ウインチベルトや固定用ベルトのフックが掛けられること、シートベルトを正しい位置に掛けられること、ヘッドレストが付いていることなどを挙げています。車いすの種類や形状によっては、乗車できない場合もあります。(ホンダ)
普段使っている車いすを福祉車両に乗せる場合は、購入時や納車時に、実際の車いすを使って固定位置を確認しておくことが重要です。
車いすを固定しても、乗っている人は守れない
今回の記事で最も大切なのが、この点です。
車いす固定ベルトは、車いす本体を固定する装置です。
車いすに乗っている人を守るシートベルトではありません。
車いすが前後からしっかり固定されていても、本人がシートベルトを着用していなければ、急ブレーキや衝突時に体が前へ投げ出される可能性があります。
車いす本体と乗っている人は、それぞれ別に固定する必要があります。
【図解3】車いす固定と本人のシートベルトは別
車いす利用者を横から見た図を描きます。
色を分けて、
- 車いす本体を固定する装置
- 腰を支える腰ベルト
- 肩から胸を通る肩ベルト
を表示します。
図の横には、次の言葉を入れます。
車いすを固定する
+
本人が3点式シートベルトを着用する
=出発前の基本確認
3点式シートベルトは、腰ベルトを腰骨のできるだけ低い位置に掛け、肩ベルトは首やあごではなく、肩の適切な位置を通るように調整します。
ベルトのねじれやたるみも確認が必要です。Hondaの取扱説明書では、肩ベルトを鎖骨の中心へ合わせ、腰ベルトを腰骨のできるだけ低い位置に掛けるよう案内しています。(ホンダ)
トヨタ・シエンタの取扱説明書でも、車いす乗車者用として3点式シートベルトが用意され、走行前に必ず正しく着用するよう記載されています。
ただし、車いすのアームレストやサイドガードの形によっては、腰ベルトが体へ密着しにくいことがあります。
ベルトが車いすの部品の上を通り、腹部から浮いている状態では、正しく着用できているとはいえません。
本人の体格や姿勢、車いすの形に合った掛け方になっているか、実際に座った状態で確認しておきましょう。
固定したあとに「少し揺らして確認」する
固定ベルトを掛けてスイッチを押したら、そこで終わりではありません。
出発前には、車いすのフレーム部分を持ち、前後左右へ軽く動かしてみます。
大きく動く場合や、片側だけ緩んでいる場合は、固定をやり直します。
また、次のような状態も確認します。
- フックが浅く掛かっていないか
- ベルトがねじれていないか
- ベルトにたるみがないか
- 左右で極端に張り方が違わないか
- ベルトが車輪や部品へ引っかかっていないか
Hondaは、固定後に車いすが確実に固定されていることを発進前に再確認するよう案内しています。(ホンダ)
「いつもと同じ音がしたから大丈夫」ではなく、最後は目と手で確認することが大切です。
ベルトの傷みも見落とさない
固定方法が正しくても、ベルトやワイヤー自体が傷んでいては十分な固定ができません。
ときどき、ベルトを引き出して状態を確認しましょう。
特に注意したいのは、次のような傷みです。
- ほつれ
- すり切れ
- 裂け
- 毛羽立ち
- フックの変形
- ワイヤーの傷やねじれ
- 巻き取りの引っかかり
- ウインチ作動時の異音
Hondaは、ウインチベルト、固定ベルト、車いす用シートベルトなどに、ほつれ・すり切れ・破れがある場合は交換するよう案内しています。(ホンダ)
トヨタの取扱説明書でも、固定装置のワイヤーに傷やほつれがある場合は、使用を続けず販売店で交換するよう警告しています。
「まだ切れていないから使える」ではなく、傷みを見つけた時点で販売店へ相談したほうが安心です。
出発前に家族が確認したいチェックリスト
毎回の操作で迷わないように、車内の見える場所へ短いチェック表を置いておくのも一つの方法です。
車いす固定の出発前チェック
- 車いすを指定された乗車位置まで入れた
- 車いすのブレーキをかけた
- 前側のウインチベルトを正しく掛けた
- 後ろ側の固定装置を正しく掛けた
- フックを指定された位置へ掛けた
- ベルトやワイヤーにねじれがない
- ベルトに目立つ傷やほつれがない
- 車いすを軽く揺らし、大きく動かないことを確認した
- 本人が3点式シートベルトを着用した
- 腰ベルトと肩ベルトの位置を確認した
- スロープを確実に格納した
- バックドアを確実に閉めた
すべてを毎回、声に出して確認する必要はありません。
ただ、家族の中で介助する人が変わる場合は、確認項目を共通にしておくと安心です。
納車時には、実際の車いすで練習しておく
固定装置の形状や操作方法は、車種や年式によって異なります。
同じメーカーのスロープ車でも、すべて同じ手順とは限りません。
中古車へ乗り換えた場合や、代車を使用する場合も、これまでと同じ感覚で操作しないようにしましょう。
納車時には、普段使用する車いすを持ち込み、販売店の担当者と一緒に次の点を確認しておくと安心です。
- 前側フックを掛ける位置
- 後ろ側フックを掛ける位置
- ベルトのねじれを確認する方法
- 増し締めの操作
- 固定できた状態の見分け方
- 3点式シートベルトの通し方
- 電動ウインチが動かない場合の対応
- 緊急時に固定を解除する方法
家族のスマートフォンで、正しく固定できた状態を撮影しておくのもよいでしょう。
ただし、後から車いすを変更した場合は、以前の写真をそのまま当てはめず、あらためて販売店へ確認してください。
まとめ|「車いすを固定した」と「安全に乗車できる」は同じではない
福祉車両に車いすのまま乗車するときは、固定ベルトを掛けただけで終わりではありません。
確認したいのは、次の3つです。
前側の固定装置
+後ろ側の固定装置
+本人の3点式シートベルト
さらに、フックを掛ける位置、ベルトのねじれやたるみ、固定後の車いすの動きも確認します。
固定装置は、見た目が似ていても車種によって操作方法が異なります。
インターネット上の一般的な図だけで判断せず、使用している福祉車両と車いす、それぞれの取扱説明書を確認することが大切です。
そして、少しでも固定方法に迷いがある場合は、販売店で実際の車いすを使って教えてもらいましょう。
毎回の固定は、慣れるほど短時間でできるようになります。
だからこそ最後に一度だけ、
車いすは動かないか。
本人のシートベルトは正しく掛かっているか。
この2点を確認してから出発したいですね。

コメント