車いすに長時間座っていると、お尻の下がジンジンする、尾てい骨のあたりが痛む、片側のお尻だけが痛くなることがあります。
「クッションが薄いから痛いのでは?」
そう考えて、厚くて柔らかいクッションに交換したくなるかもしれません。
しかし、車いすに座ったときのお尻の痛みは、クッションだけが原因とは限りません。
姿勢が崩れていたり、座面の奥行きが身体に合っていなかったり、フットサポートの高さがずれていたりすると、どれだけ高性能なクッションを使っても痛みが続くことがあります。
この記事では、車いすに長時間座るとお尻が痛くなる主な原因と、クッションを購入する前に確認したいポイントを解説します。
車いすに座るとお尻が痛くなるのはなぜ?
車いすに座ると、身体の重さは主にお尻と太ももで支えられます。
特に圧力が集中しやすいのが、お尻の下にある「坐骨」と呼ばれる骨の周辺です。
同じ姿勢で座り続けると、坐骨周辺の皮膚やその内側の組織が長時間圧迫されます。圧迫によって血流が悪くなると、痛みやしびれ、皮膚の赤みにつながることがあります。
自分で身体を動かしたり、お尻を浮かせたりすることが難しい人は、同じ場所に圧力がかかり続けやすいため、より注意が必要です。日本褥瘡学会も、長時間圧迫された部分では皮膚の細胞に十分な酸素や栄養が届かなくなり、褥瘡が生じることがあると説明しています。
ただし、痛みの原因は圧迫だけではありません。
車いすの中で身体が前へずれたり、骨盤が傾いたりすることで起こる「ずれ」や「摩擦」も、お尻の負担を大きくします。
原因① 同じ場所に圧力が集中している
長時間座っているときに痛くなりやすい場所として、次のような部分があります。
- 左右の坐骨の下
- 尾てい骨の周辺
- 仙骨と呼ばれる腰の下の部分
- お尻の片側だけ
- 太ももの裏側
車いすで長時間座る場合、特に坐骨周辺は圧迫されやすい部分です。下半身に麻痺がある人や、痛みを感じにくい人では、皮膚や内部の組織に負担がかかっていても気づきにくいことがあります。
痛みを感じられる人にとっては、「痛い」という感覚が姿勢を変えるためのサインになります。
一方、感覚が低下している人は、痛みがなくても皮膚の状態を確認することが大切です。
原因② 骨盤が後ろに倒れ、前へずっている
車いすに座っているうちに、お尻が少しずつ前へ移動していないでしょうか。
お尻が前へずり、背中が丸くなった姿勢は「すべり座り」と呼ばれることがあります。
すべり座りになると、骨盤が後ろへ倒れ、坐骨ではなく尾てい骨や仙骨の周辺に体重がかかりやすくなります。
また、身体は前へずろうとしているのに、皮膚はクッションとの摩擦によってその場に残ろうとします。このとき、皮膚の表面と内部の組織に異なる方向の力が加わります。
これが「ずれ」です。
厚生労働省も、身体に合わない車いすでは、苦痛を避けるためにすべり座りや斜め座りが起こり、ずり落ちや仙尾骨部の褥瘡につながることがあると説明しています。厚い座布団などを安易に使用すると、ずり落ちを助長する場合もあります。
次のような座り方になっている場合は、クッションだけでなく姿勢全体を確認しましょう。
- 背もたれと腰の間に大きな隙間がある
- 座り直しても、すぐに身体が前へずれる
- 尾てい骨の周辺が痛い
- 背中が丸くなっている
- 左右どちらかに身体が傢いている
- 足がフットサポートから落ちやすい
原因③ 座面の奥行きが身体に合っていない
車いすの座面には、身体に合った奥行きが必要です。
座面が深すぎる場合
座面が深すぎると、座面の前端が膝の裏に当たります。
そのため、お尻を背もたれまで深く入れて座ることが難しくなり、身体が前へずりやすくなります。
膝の裏が強く当たることで、太ももの裏側に痛みや圧迫感が出ることもあります。
座面が浅すぎる場合
座面が浅すぎると、太ももを十分に支えられません。
身体を支える面積が小さくなるため、お尻の狭い範囲に体重が集まりやすくなります。
また、太ももの支えが少ないことで、座った姿勢が不安定になる場合もあります。
座面奥行きの確認方法
お尻を背もたれまで入れて座り、座面の前端と膝裏との間を確認します。
身体の状態によって異なりますが、目安として約2.5~5センチ程度の余裕を取り、座面が膝裏やふくらはぎに強く当たらないようにします。座面奥行きは、臀部から膝裏までの長さだけでなく、股関節や膝関節の角度も考慮して決める必要があります。
「指が何本入るか」だけで判断するのではなく、次の点も確認しましょう。
- お尻を背もたれまで入れられるか
- 膝裏が座面に当たっていないか
- 左右の太ももが同じように支えられているか
- 座っているうちに身体が前へずれないか
原因④ フットサポートの高さが合っていない
フットサポートは、単に足を置くための部品ではありません。
足を支えることで、太ももや骨盤を安定させ、座面にかかる圧力を分散する役割があります。
フットサポートが高すぎる場合
フットサポートが高すぎると、膝が持ち上がり、太ももが座面から浮きやすくなります。
太ももで支えられる体重が減るため、坐骨周辺に圧力が集中しやすくなります。実際に、フットサポートを高くすると、坐骨周辺の圧力が上昇する可能性が示されています。
フットサポートが低すぎる場合
フットサポートが低すぎると、足をしっかり支えられず、太ももや骨盤の安定が崩れやすくなります。
座面前方や太ももの裏側に負担がかかったり、身体が前へずれたりする原因になることもあります。
クッションの高さを変えた場合は、座面からフットサポートまでの距離も変わります。
たとえば、今までより5センチ厚いクッションに交換すると、使用者の身体は5センチ近く高い位置に移動します。そのままでは、フットサポートが相対的に低くなります。
クッションを交換するときは、クッションだけを見るのではなく、フットサポートの高さも一緒に確認しましょう。クッションの厚みを含めた座面高と下腿の長さに合わせて調整することが、圧力分散と骨盤の安定につながります。
原因⑤ 身体が左右どちらかに傾いている
片方のお尻だけが痛い場合は、左右で体重のかかり方が違っている可能性があります。
たとえば、次のような状態です。
- 骨盤が左右どちらかに傾いている
- 背骨が曲がっている
- 片側の肘掛けに寄りかかっている
- 片方の足だけフットサポートから外れている
- クッションが左右にずれている
- 車いすの座面シートがたわんでいる
骨盤が左右に傾くと、低くなっている側の坐骨周辺に圧力が集中しやすくなります。
骨盤の傾きには、姿勢の癖だけでなく、関節の動き、筋力、身体の変形、車いすの幅や背もたれの形など、複数の原因が関係します。
無理にクッションを片側へ入れて身体をまっすぐにしようとすると、かえって別の場所に圧力が集中することもあります。
片側の痛みが続く場合は、理学療法士や作業療法士などに座位姿勢を確認してもらうことをおすすめします。
原因⑥ 汗や蒸れ、衣類のしわが負担になっている
お尻の痛みや皮膚トラブルには、汗や蒸れも関係します。
長時間座っていると、クッションと身体の間に熱や湿気がこもります。
皮膚が湿った状態になると刺激に弱くなり、圧迫や摩擦の影響を受けやすくなります。排泄物や汗による皮膚のふやけ、摩擦やずれが重なると、褥瘡のリスクが高くなるとされています。
次のような点も確認しましょう。
- ズボンや下着に厚い縫い目がないか
- ポケットに財布やスマートフォンを入れていないか
- 衣類やオムツにしわが寄っていないか
- クッションカバーが裏返しになっていないか
- 防水シートなどを何枚も重ねていないか
- 汗や湿気が長時間残っていないか
圧力分散クッションの上に、座布団や厚いタオル、防水シートなどを重ねると、クッション本来の沈み込みや身体へのなじみ方を妨げる場合があります。
クッションを交換するだけでは解決しないこともある
車いすクッションには、お尻にかかる圧力を分散したり、姿勢を安定させたりする役割があります。
しかし、クッションは単独で使うものではありません。
車いすの座面、背もたれ、アームサポート、フットサポートなどと組み合わさって、ひとつの座位環境を作っています。
クッションを厚くすれば、座る位置が高くなります。
座る位置が高くなれば、次の位置関係も変わります。
- フットサポートまでの距離
- アームサポートの高さ
- 背もたれが身体を支える位置
- 頭部や肩の位置
- ハンドリムをこぐときの腕の位置
- テーブルや机との高さ
そのため、「柔らかいクッションにすれば痛くなくなる」とは限りません。
車いすとクッションは、使用する人の身体の大きさや姿勢、動かせる範囲、生活環境に合わせて調整する必要があります。クッションには圧力を再分配する働きがありますが、身体との適合や姿勢保持、安定性まで含めて検討することが重要です。
まず確認したい7つのチェックポイント
お尻が痛いと感じたときは、次の順番で確認してみましょう。
1.どこが痛いか
坐骨の真下、尾てい骨、片側のお尻、太ももの裏など、痛む場所を確認します。
2.いつから痛くなるか
座ってすぐに痛むのか、1時間程度で痛むのか、午後になると痛むのかを記録します。
時間帯や外出先によって違う場合は、姿勢や座っている時間、衣類、気温なども関係している可能性があります。
3.お尻が前へずれていないか
座った直後と、しばらく座った後の姿勢を比べます。
自分で確認しにくい場合は、家族や介助者に横から見てもらう方法もあります。
4.座面が膝裏に当たっていないか
お尻を背もたれまで入れた状態で、膝裏に余裕があるか確認します。
5.足が安定しているか
両足がフットサポートに乗っているか、膝が持ち上がりすぎていないか、足が浮いた状態になっていないかを確認します。
6.クッションの状態を確認する
クッションの前後や表裏が合っているか、空気が抜けていないか、ウレタンがつぶれていないか、カバーが正しく装着されているかを確認します。
7.皮膚の状態を確認する
座った後に、お尻や尾てい骨周辺の皮膚を確認します。
赤みが残っている、皮膚がただれている、傷がある場合は、その部分への圧迫を避けて、早めに医師や看護師へ相談しましょう。
日本褥瘡学会では、赤くなった部分を軽く押しても赤みが消えない場合は、初期の褥瘡が疑われるとして、医師または看護師への相談を勧めています。
痛みが続くときは専門家に座り方を見てもらう
車いすに座ったときのお尻の痛みには、複数の原因が重なっていることがあります。
クッションだけを交換しても改善しない場合は、車いすを調整した医療機関や、理学療法士、作業療法士、義肢装具士、福祉用具の担当者などに相談してみましょう。
相談するときは、次の情報があると状況を伝えやすくなります。
- 痛む場所
- 痛くなるまでの時間
- 使用している車いすとクッション
- 1日に車いすへ座る時間
- 痛みが強くなる場面
- 皮膚の赤みや傷の有無
- 最近クッションや車いすを変更したか
- 身体が前や左右へずれるか
可能であれば、正面と横から座った姿勢の写真を撮っておくと、姿勢の変化を説明しやすくなります。
まとめ|クッションを買う前に座り方を確認しよう
車いすに長時間座ったときのお尻の痛みは、クッションの硬さや素材だけで決まるものではありません。
姿勢、座面の奥行き、フットサポートの高さ、背もたれ、衣類、湿気など、さまざまな条件が関係します。
特に確認したいのは、次のポイントです。
- 同じ場所に圧力が集中していないか
- お尻が前へずれていないか
- 骨盤が左右に傾いていないか
- 座面の奥行きが身体に合っているか
- フットサポートの高さが合っているか
- クッションが正しく使われているか
- 皮膚に消えない赤みや傷がないか
クッションは、お尻の痛みや姿勢を改善するための大切な福祉用具です。
ただし、身体や車いすに合っていなければ、期待した効果を得られないことがあります。
まずは痛みの原因を確認し、そのうえで自分に合ったクッションを選ぶことが大切です。
次回は、ウレタン、ジェル、エアーなど、車いすクッションの種類と選び方を比較します。
次の記事
車いすクッションの種類と選び方|ウレタン・ジェル・エアーを比較【全3回・第2回】

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