車いすからクルマへの移乗を楽にする方法|抱え上げる介助がつらくなった家族へ

車いすの家族をクルマに乗せるとき、いちばん大変なのが「移乗」です。

車いすから助手席へ。
助手席から車いすへ。
外出のたびにこの動作があるだけで、介助する家族の腰や腕にはかなりの負担がかかります。

最初のうちは「まだ抱えられる」「なんとか乗せられる」と思っていても、本人の体重が増えたり、介助者の体力が落ちたり、雨の日や外出先での乗り降りが増えたりすると、だんだん負担は大きくなります。

移乗を楽にする方法は、介助者がもっと力をつけることではありません。

大切なのは、車いすの位置、クルマの座席の高さ、本人の姿勢、使える福祉用具、そして必要なら福祉車両まで含めて見直すことです。

この記事では、車いすからクルマへの移乗を少しでも楽にするための考え方を、家族介助の目線で解説します。

目次

移乗が大変になる理由

車いすからクルマへの移乗が大変になる理由は、単に「本人が重いから」だけではありません。

一番の問題は、車いすとクルマの座席がそもそも移りやすい形になっていないことです。

車いすは横から近づけても、クルマにはドアからシートまで間隔があります。
また座面の高さが車種により違うため、高いクルマは大変になります。
さらに、ドアの開き方や間口の狭さによって、介助者がよい姿勢で支えられないこともあります。

つまり、移乗が大変なのは「介助が下手だから」ではなく、環境そのものが難しいことが多いのです。

特に次のような場合は、負担が大きくなりやすいです。

状況移乗が大変になる理由
本人が立てない抱え上げに近い介助になりやすい
本人の足に力が入りにくい回転動作や踏ん張りが難しい
座位が不安定移乗中に前後左右へ倒れやすい
車の座面が高い持ち上げる動作が増える
ドア開口部が狭い介助者が体を入れにくい
車いすも積み込む必要がある移乗後にも介助者の負担が残る

この状態で毎回「よいしょ」と抱え上げていると、本人にも介助者にも負担が積み重なります。

まず見直したいのは、車いすとクルマの位置

移乗を楽にする第一歩は、道具を買うことではありません。
まずは、車いすとクルマの位置を見直すことです。

クルマはできるだけ平らな場所に停めます。
坂道や段差のある場所、砂利道、雨で滑りやすい場所は避けたほうが安全です。

次に、車いすをクルマの座席にできるだけ近づけます。
真正面ではなく、少し斜めにつけたほうが、本人の体を回転させる距離を短くしやすくなります。

移乗前には、必ず次のことを確認します。

チェック項目理由
車いすのブレーキをかける移乗中に車いすが動くのを防ぐ
フットサポートを上げる・外す足が引っかかるのを防ぐ
アームサポートを外す・跳ね上げる横移乗しやすくする
ドアをしっかり開ける介助スペースを確保する
本人の足の位置を確認するねじれや引っかかりを防ぐ

この準備を省くと、介助者が余計な力を使うことになります。
逆に言えば、準備を整えるだけでも、移乗の負担はかなり変わります。

「持ち上げる」より「近づけて、ずらす」

車いすからクルマへの移乗では、つい本人を抱え上げようとしてしまいます。

でも、持ち上げる介助は介助者の腰に大きな負担がかかります。
本人にとっても、体が宙に浮くような感覚になり、怖さを感じやすくなります。

理想は、できるだけ持ち上げずに、近づけて、少しずつ移ることです。

本人が少しでも足に力を入れられる場合は、声かけをしながらタイミングを合わせます。

「少し前に体を倒します」
「足を床につけます」
「せーので、お尻を座席の方へ移します」

このように、本人ができる動きを使うだけでも、介助者の負担は減ります。

ただし、本人の座位が不安定な場合や、体が急に倒れやすい場合は無理をしないでください。
家族だけで判断せず、理学療法士、作業療法士、福祉用具専門相談員などに相談したほうが安全です。

トランスファーボード・スライディングボードを使う

移乗を楽にする道具としてよく使われるのが、トランスファーボードやスライディングボードです。

これは、車いすと移乗先の座席の間に橋をかけるように使う板です。
本人を座ったまま横へ移動させるための福祉用具で、表面が滑りやすく作られています。

公益財団法人テクノエイド協会でも、スライディングボードは「座ったまま横に移乗するための橋渡しをする板」と説明されており、ベッドから車いす、車いすから便座、車いすから自動車などへの移乗にも使うものとされています。

スライディングボードを使うと、本人を抱き上げる必要が少なくなります。
お尻を少し浮かせたり、体を傾けたりしながら、板の上を滑るように移るため、介助者の腰への負担を減らしやすいのがメリットです。

ダスキンヘルスレントでも、スライディングボードは抱き上げる必要がないため、介助を受ける人・介助する人の両方の身体的負担を軽減できると説明されています。

ただし、誰にでも使えるわけではありません。

スライディングボードに向いているのは、座った姿勢をある程度保てる人です。
逆に、座位が不安定な人、体が横に倒れやすい人、お尻に床ずれや皮膚トラブルがある人は注意が必要です。

テクノエイド協会のヒヤリハット情報でも、スライディングボードは基本的に端座位が安定している人のための移乗用具で、座位が不安定な人に使うと滑り落ちなどが起こりやすいとされています。

つまり、スライディングボードは便利な道具ですが、「買えば誰でも楽になる魔法の板」ではありません。

使う前に確認したいポイントは、次のとおりです。

確認すること理由
本人が座位を保てるか移乗中の転倒を防ぐため
車いすと座席の高さが近いか段差が大きいと滑りにくい
車いすのアームサポートが外せるか板を差し込みやすくするため
車と車いすのすき間が広すぎないかボードが安定しない可能性がある
皮膚トラブルがないか摩擦で悪化することがある

特にクルマで使う場合は、ベッドと違って座席の形が複雑です。
シートの横が盛り上がっていたり、ドアとの間が狭かったり、座面が高かったりすると、思ったように使えないこともあります。

購入前に、実際の車種、本人の体格、車いすの種類を確認しておくことが大切です。

後付けの移乗補助装置は便利だが、高額で車種制限もある

ここで注意したいのは、手で差し込んで使うスライディングボードと、クルマに後付けする移乗補助装置は別物だということです。

スライディングボードは、基本的には持ち運びできる板です。
一方で、車のシート横に取り付けるサイドサポート、回転シート、昇降シート、リフトなどは、車両側に取り付ける装置です。

この後付けタイプは、うまく合えば移乗をかなり楽にできます。
しかし、費用はかなり高くなりやすく、どの車にも取り付けられるわけではありません。

たとえば、後付けの回転シート「ターンアウト」は、参考部品価格だけで766,500円からと案内されています。
また、福祉車両の後付け改造では、車いすスロープ改造が48万円から、車いすリフト改造が78万円からといった費用例もあります。
移乗ボードは後付けだと30万円近くかかります。

さらに、取り付けには車種ごとの条件があります。

ミクニ ライフ&オートの移乗補助用サイドサポートでは、車種により取り付けできない場合があること、運転席とドアとの隙間が50mm以上必要なこと、取り付け時に車両側の一部加工が必要なことが案内されています。

つまり、後付け装置は「今の車にあとから付ければ解決」という単純な話ではありません。

ドアとシートの間隔。
シート下のスペース。
エアバッグの位置。
車両側の加工可否。
本人の乗り移り方。
介助者の立ち位置。

こうした条件が合わないと、取り付けできない場合があります。

特に軽自動車やコンパクトカーは、車内スペースが限られているため、後付け装置の取り付けに制限が出やすいです。

そのため、移乗補助装置を考える場合は、商品だけを先に選ぶのではなく、必ず車種ごとの適合確認をする必要があります。

軽自動車で頑張れるケース・厳しくなるケース

車いすの家族との移動で、軽自動車を使っている家庭は多いと思います。

軽自動車は維持費が安く、近所の通院や買い物には使いやすいです。
スライドドアの車種なら、乗り降りのスペースも取りやすいです。

ただし、車いすからクルマへの移乗という視点で見ると、軽自動車には限界もあります。

軽自動車で頑張りやすいのは、次のようなケースです。

軽自動車でも対応しやすいケース
本人が少し立てる
体格が小さい
短距離移動が中心
介助者が無理なく支えられる
車いすが軽く、積み下ろししやすい
ドア開口部が広い車種を使っている

一方で、次のような状態になってきたら注意が必要です。

軽自動車が厳しくなりやすいケース
本人が立てない
介助者が毎回抱え上げている
子どもが成長して抱っこが限界
介助者の腰や肩に痛みがある
雨の日の乗り降りが危ない
車いすの積み込みまで負担になっている
本人が移乗を怖がるようになった

「まだ乗せられる」状態でも、介助者が毎回無理をしているなら、すでに見直しのタイミングかもしれません。

福祉車両を考えたほうがいいサイン

移乗を楽にする方法を試しても、毎回の乗り降りが大きな負担になる場合は、福祉車両を検討する段階です。

福祉車両といっても、選択肢はいくつかあります。

選択肢特徴
回転シート車シートが外側に回転し、乗り降りしやすい
昇降シート車シートが外へ出て上下し、座り移りしやすい
スロープ車車いすのまま車内へ乗り込める
リフト車車いすごと持ち上げて乗車できる
後付け改造今の車を一部福祉車両化する方法

本人が普通の座席に座れるなら、回転シートや昇降シートが合う場合があります。
一方、移乗そのものが危険になっている場合は、車いすのまま乗れるスロープ車やリフト車のほうが現実的です。

特に、本人が移乗を怖がるようになった、介助者が腰を痛めている、外出回数が減っているという場合は、単なる介助方法の問題ではなく、クルマの使い方そのものを見直すサインです。

家族だけで判断しないほうがいいケース

移乗は、失敗すると転倒やケガにつながる動作です。

次のような場合は、家族だけで無理に工夫しないほうが安全です。

相談したほうがいいケース
本人の座位が不安定
体が急に倒れやすい
足にまったく力が入らない
痛みや関節の変形がある
皮膚トラブルや床ずれがある
医療的ケアがある
介助者が1人で支えるのが怖い
本人が移乗を強く嫌がる

この場合は、理学療法士、作業療法士、ケアマネジャー、福祉用具専門相談員、福祉車両の専門店などに相談しましょう。

道具を買う前に、本人の体の状態と、今のクルマでできること・できないことを見てもらうほうが失敗しにくいです。

移乗を楽にするためのチェックリスト

最後に、今の移乗方法を見直すためのチェックリストを置いておきます。

チェック項目当てはまる?
車いすのブレーキを毎回確認している
フットサポートを上げてから移乗している
車いすをクルマに近づけている
本人の足の位置を確認している
介助者が腰だけで抱えていない
本人と声かけのタイミングを合わせている
スライディングボードなどの道具を検討した
後付け装置の費用と適合条件を確認した
福祉車両も選択肢に入れている

この中で、できていない項目が多い場合は、まず移乗の環境を整えるところから始めてみてください。

逆に、準備を整えても毎回つらい場合は、今の方法や車が家族の状態に合わなくなってきている可能性があります。

まとめ

車いすからクルマへの移乗を楽にする方法は、介助者がもっと頑張ることではありません。

車いすの位置を整える。
クルマとの距離を近づける。
本人ができる動きを活かす。
必要に応じて、スライディングボードなどの福祉用具を使う。
それでも難しい場合は、後付け装置や福祉車両を検討する。

この順番で考えることが大切です。

特に注意したいのは、後付けの移乗補助装置です。
便利な反面、費用は高額になりやすく、ドアとシートの間隔や車種によって取り付けできない場合もあります。

「まだ抱えられるから大丈夫」と思っているうちに、介助者の腰や肩に負担がたまっていくこともあります。

毎回の移乗がつらくなってきたら、それは家族の努力不足ではありません。
今の移乗方法やクルマを見直すタイミングです。

外出をあきらめる前に、まずは安全に、そして少しでも楽に乗り移れる方法を考えていきましょう。

ひとりで悩まず、まず整理。

福祉車両の選び方や制度を一緒に整理します。


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この記事を書いた人

やんち
出歩くのが好きなやんちが、外出が困難な方に役立つ色んな情報を発信しています。

仕事:技士をしていましたが現在事務職です。車いすユーザーです。
   手動装置のクルマと電車で通勤してます。
趣味:テニスと英語と美術館巡り
特技:ラジオドラマ脚本は5分番組から1時間番組まで多数放送化されました。
資格:福祉車両取扱士

関西を中心に出来る限り実体験ベースで検証記事を書いています。
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