車いす利用者が一般車に乗る場合、本人が座席へ移乗したあと、介助者が車いすを折りたたんで荷室へ積み込むことがあります。
また、車いす利用者本人が運転し、自分で後席や助手席側へ車いすを収納するケースもあります。
一度だけなら何とかできても、通勤・通院・送迎などで毎日繰り返すとなると、車いすの積み降ろしは想像以上の重労働です。
「最近、腰や手首が痛くなってきた」
「もっと少ない力で積み込めないだろうか」
「次に車を買うなら、車いすを楽に積める車を選びたい」
このような悩みを抱えている方も多いのではないでしょうか。
この記事では、車いすを車へ積み込む基本手順、腰への負担を減らすコツ、収納場所ごとの違い、走行中の固定方法、便利な収納装置について解説します。
大切なのは、単に「車いすが入るか」ではありません。
普段積み降ろしをする人が、毎日無理なく続けられるかどうかまで確認しましょう。
最初に確認|車いすに乗ったまま乗車するのか、座席へ移乗するのか
車いすの車載方法は、大きく2つに分かれます。
車いすに乗ったまま乗車する
スロープ車やリフト車を使い、車いすに乗ったまま車内へ入る方法です。
この場合は、車いすを折りたたんで荷室へ収納するのではなく、車いす乗車スペースに固定します。
車いす固定装置や乗員用シートベルトの使用方法は車種によって異なるため、必ず車両の取扱説明書に従ってください。
座席へ移乗して、空になった車いすを収納する
本人が助手席や後席へ移乗し、空になった車いすを荷室や車内へ収納する方法です。
この記事では、主にこちらの積み方を扱います。
誰が車いすを積むかで、使いやすい収納場所は変わる
同じ車いすでも、誰が積み込むかによって適した方法は異なります。
介助者が荷室へ積む場合
介助者が積み込む場合は、バックドアから荷室へ収納する方法が一般的です。
荷室床面が低く、開口部が広い車ほど、車いすを高く持ち上げる必要がありません。
両手を使いやすい一方で、バンパーが高い車や荷室の奥行きが深い車では、腕を伸ばした中腰姿勢になりやすいため注意が必要です。
車いす利用者本人が積む場合
本人が運転する場合は、運転席から車いすを収納する場所までの動線が重要です。
荷室へ積むと、積み込み後に運転席まで移動しなければなりません。
後席や助手席側へ積む方法なら移動距離を短くできますが、車いすを身体の上や横へ持ち上げる動作が必要になることがあります。
肩、肘、手首への負担も含め、実車で一連の動作を試すことが大切です。
車いすの種類によって積み方は異なる
車いすは種類によって、大きさ、重量、折りたたみ方が異なります。
自走式車いす
自走式車いすは、利用者が手でこぐための大きな後輪が付いています。
折りたたんでも後輪部分が大きく残るため、荷室の高さや開口幅を確認する必要があります。
一部の車いすは後輪を取り外せますが、毎回の着脱には手間がかかります。取り付け後は、確実に固定されていることを確認してください。
介助式車いす
介助式車いすは、自走式より後輪が小さい製品が多く、比較的コンパクトに収納できます。
ただし、ヘッドサポート、姿勢保持装置、酸素ボンベホルダーなどを装着している場合は、折りたたみ寸法が大きくなることがあります。
電動車いす・簡易電動車いす
電動車いすは、手動車いすより重い製品が多く、無理な手積みは腰や腕を痛める原因になります。
バッテリーや電動ユニットを取り外せる場合でも、それぞれの部品に重量があります。
一人で持ち上げることが難しい場合は、収納リフト、クレーン、電動ウインチ、スロープ車などを検討しましょう。
車いすの積み込みで腰を痛めやすい理由
車いすの積み込みは、重さだけが問題ではありません。
次のような動作が重なることで、腰や肩、手首への負担が大きくなります。
- 中腰のまま持ち上げる
- 腕を前へ伸ばした状態で支える
- 車いすを持ったまま身体をひねる
- 高いバンパーを越えて持ち上げる
- 荷室の奥まで押し込む
- 同じ動作を毎日繰り返す
厚生労働省も、重量物の持ち上げ、押す・引く動作、腰を深く曲げる姿勢などを腰痛の発生要因として挙げています。
「まだ持てるから大丈夫」と無理を続けるのではなく、身体の痛みが強くなる前に積み方や装備を見直しましょう。
腰への負担を減らす持ち上げ方
車いすを持ち上げるときは、腰だけで持ち上げないことが基本です。
車いすに身体を近づける
車いすから離れた位置で持ち上げると、腕を伸ばした状態になり、腰への負担が増します。
持ち上げる前に車いすへ近づき、できるだけ身体の近くで支えます。
膝と股関節を曲げる
腰だけを曲げるのではなく、片足を少し前に出して膝を曲げ、身体の重心を低くします。
車いすを身体へ引き寄せ、膝を伸ばしながら立ち上がるように持ち上げます。
持ったまま身体をひねらない
車いすを持ったまま、上半身だけをひねって荷室へ入れる動作は避けます。
身体の向きを変えるときは、足を小さく動かして全身の向きを変えましょう。
一気に全重量を持ち上げない
車いすの後輪などを先に荷室床面へ載せ、そこを支点にして奥へ移動できる場合があります。
荷室床面やバンパーを傷つけないよう、保護マットや厚手のシートを敷いておくと安心です。
ただし、車いすや車両の形状によっては、この方法が使えない場合があります。
無理に滑らせず、安定して支えられる方法を選んでください。
車いすを積み込む基本手順
積み込みの順番を毎回そろえると、余計な動作を減らせます。
1.平坦で安全な場所に停車する
できるだけ傾斜のない場所へ停車し、車のパーキングブレーキを確実に掛けます。
交通量の多い道路や、車のすぐ横を人が通る場所は避けましょう。
2.車いすの荷物を外す
バッグ、クッション、テーブル、酸素ボンベなど、取り外せるものを先に外します。
車いす本体を軽くできるだけでなく、持ち上げたときに部品が落下するのを防げます。
3.フットサポートを上げる
フットサポートが下がったままだと、荷室の床やバンパーに引っ掛かることがあります。
跳ね上げられる場合は上げ、取り外せる場合は必要に応じて外します。
4.キャスターの向きを整える
前輪キャスターが横を向いていると、荷室へ入れる途中で引っ掛かることがあります。
車いすの形状に合わせ、収納しやすい方向へそろえておきます。
5.車いすを折りたたむ
座面を持ち上げて折りたたむタイプなど、製品ごとに正しい手順があります。
無理な方向へ力を加えず、車いすの取扱説明書に従ってください。
6.車いすを身体へ引き寄せる
フレームの安定した部分を持ち、車いすを身体へ近づけます。
アームサポート、フットサポート、ブレーキレバーなど、動く部品だけを持って持ち上げないようにします。
7.荷室へ入れて固定する
車いすを荷室へ収納したら、走行中に倒れたり移動したりしないように固定します。
外したクッションや部品も、別々に動かないよう収納してください。
積み込み中のブレーキはどうする?
車いすを準備している間や傾斜のある場所では、車いすが動かないようブレーキを掛けておく必要があります。
一方、平坦で周囲の安全が確保でき、車輪を荷室床面で転がしながら収納する場合は、積み込み動作の間だけブレーキを解除したほうが動かしやすいことがあります。
ただし、これは次の条件がそろっている場合に限ります。
- 地面が平坦である
- 車いすから手を離さない
- 周囲に人や車がいない
- 車いすが勝手に転がる方向へ傾いていない
- 積み込み後すぐに固定できる
坂道や傾斜した駐車場では行わないでください。
「必ず解除する」「必ず掛けたままにする」と決めつけず、車いすが不意に動かないことを最優先に判断します。
どこに積む?収納場所ごとの違い
車いすは、荷室だけでなく、後席や助手席側へ収納できる場合があります。
| 収納場所 | メリット | 注意点 |
|---|---|---|
| 後部荷室 | 両手を使いやすく、客室を汚しにくい | 荷室床面が高いと持ち上げが大変 |
| 後席 | 運転席から比較的近い | ドアの開口幅やシートの汚れに注意 |
| 助手席 | 本人が運転席から扱いやすい場合がある | 視界、エアバッグ、シートベルトを妨げない配置が必要 |
| 助手席後方 | スライドドア車では積みやすい場合がある | 身体の上を通す動作は肩や手首への負担が大きい |
| ルーフ収納 | 車内や荷室を広く使える | 車高、装置費用、対応車種、メンテナンスの確認が必要 |
車いす利用者本人が積む場合は、単に収納できるだけでなく、収納後にドアを閉めて運転姿勢へ戻れるかまで確認します。
走行中に車いすが動かないよう固定する
折りたたんだ車いすも、車内では大きな荷物です。
急ブレーキや急旋回で倒れたり、ほかの荷物とぶつかったりしないように固定します。
固定するときのポイント
- 荷室の固定フックや対応するベルトを使用する
- 滑り止めマットを敷く
- 倒れにくい向きで収納する
- 外したフットサポートやクッションも固定する
- 車いすの上へ重い荷物を積まない
- 鋭い部品が窓や内装へ当たらないようにする
- 車両の取扱説明書に収納方法の指定があれば従う
車いすのブレーキは車輪を止めるためのものですが、走行中の荷物固定用装置ではありません。
ブレーキだけに頼らず、ベルトなどで車両側へ固定しましょう。
車いすを積みやすい車の特徴
「車いすが入る車」と「車いすを毎日楽に積める車」は、同じではありません。
積み込みやすさを左右するのは、荷室容量だけではなく、床面の高さや開口部の形です。
荷室床面が低い
持ち上げる高さが数センチ違うだけでも、毎日の負担感は変わります。
カタログを見るだけでなく、地面から荷室床面までの高さを実車で確認しましょう。
開口部が広い
開口部が狭いと、車いすを斜めにしたり、途中で向きを変えたりする必要があります。
幅だけでなく、開口部上部の高さやバックドアの形も確認します。
バンパーの張り出しが少ない
バンパーが大きく張り出していると、車いすを身体から離した状態で持たなければなりません。
腰への負担を考えると、車いすを身体に近づけたまま積める形が理想です。
後席を簡単に収納できる
後席を倒す、跳ね上げる、床下へ収納するなど、車種によってシートアレンジは異なります。
毎回複雑な操作が必要な車より、少ない動作で荷室を広げられる車のほうが使いやすいでしょう。
バックドアが雨よけになる
上へ跳ね上げるタイプのバックドアは、雨の日の積み降ろしで簡易的な屋根になります。
ただし、横風がある場合や強い雨では完全に防げません。
毎日の負担を減らす便利な装備
車いすを頻繁に積み降ろしする場合は、人力だけで頑張り続けるのではなく、収納装置を検討する方法があります。
車いす収納リフト
車いすを電動で持ち上げ、荷室へ収納する装置です。
スイッチ操作で収納できるため、持ち上げる力を大幅に減らせます。
例えばトヨタでは、条件に合う車いすを電動で収納する後付け装置を案内しています。ただし、車いすの重量や寸法だけでなく、形状や車両側の装備によって取り付けられない場合があります。
クレーン・ホイストタイプ
荷室に取り付けたアームで、車いすを吊り上げる装置です。
電動車いすや簡易電動車いすなど、手で持ち上げることが難しい場合に役立ちます。
対応重量、吊り上げ位置、荷室の高さ、車両への取り付け可否を専門業者に確認してください。
電動ウインチ
車いすをワイヤーで引き上げる装置です。
主に車いすに乗ったままスロープを上がる場合などに使用されます。
空の車いすを荷室へ収納する目的で使用できるかは、車両と装置の仕様によって異なります。
ルーフ収納装置
折りたたんだ車いすを車の屋根上にあるケースへ収納する装置です。
車内空間を使わないメリットがありますが、対応車種、車いすの形状、車高、駐車場の高さ制限を確認する必要があります。
保護マット・滑り止めマット
高価な装置を導入しなくても、荷室用の保護マットや滑り止めマットで作業しやすくなる場合があります。
車いすを荷室へ滑らせるときの傷を防ぎ、収納後の移動も抑えられます。
ポータブルスロープは積み込みに使える?
ポータブルスロープは、段差を越えるための福祉用具です。
「重い車いすを持ち上げず、スロープで荷室へ入れられないか」と考える方もいるでしょう。
しかし、車両の荷室への積み込みは、一般的な玄関段差とは条件が異なります。
- スロープを確実に固定できるか
- 車両の床面と安定して接続できるか
- スロープの耐荷重を超えないか
- 勾配が急になりすぎないか
- 車いすが後方へ転落しないか
これらを確認する必要があります。
市販の段差解消用スロープを、車両への積み込み用として自己判断で使用するのは避けましょう。
車載用として認められた装置や、車両メーカー・専門業者が案内する方法を選んでください。
雨の日の積み込みで気をつけたいこと
雨の日は路面が滑りやすく、車いすや介助者の手も濡れます。
できるだけ屋根のある場所を選びましょう。
屋根がない場合は、次のものを準備しておくと便利です。
- 車いすやタイヤを拭くタオル
- クッションを覆う防水カバー
- 濡れた部品を入れる袋
- 荷室の防水マット
- 介助者用の滑りにくい靴
クッションをビニール袋で覆ったまま使用すると、蒸れや滑りの原因になることがあります。
一時的な雨よけとして使用し、着座するときは本人の姿勢や安全を確認してください。
夜間や路肩で積み降ろしするときの注意点
交通量のある場所での積み降ろしは、車いすの重さとは別の危険があります。
できるだけ安全な場所へ移動する
交通量の多い車道ではなく、駐車場や広い停車スペースを選びます。
やむを得ず道路脇で作業する場合も、見通しの悪い場所やカーブの近くは避けましょう。
歩道側で作業できる向きに停める
可能であれば、車道側ではなく歩道側から車いすを出し入れできる位置に停めます。
スライドドアを使用する場合は、ドアを全開にできるスペースも必要です。
ハザードだけに頼らない
ハザードランプを点灯していても、積み降ろしをしている人の姿まで十分に見えるとは限りません。
夜間は反射材、携帯ライト、車内灯などを使い、周囲から見つけてもらいやすくします。
ただし、ライトを道路へ強く向け、ほかの運転者をまぶしくさせないよう注意してください。
長距離移動や旅行時の収納ポイント
長距離移動では、振動によって固定ベルトが緩んだり、荷物の位置が変わったりすることがあります。
休憩時には次の点を確認しましょう。
- 車いすが倒れていないか
- 固定ベルトが緩んでいないか
- フットサポートなどの部品が動いていないか
- クッションがほかの荷物に押しつぶされていないか
- 電動車いすの操作部や電動ユニットが傷ついていないか
車いすの上や周囲に荷物を詰め込みすぎると、到着後に車いすを取り出せなくなることもあります。
使用する順番を考えて収納しましょう。
車を購入する前に、実際の車いすを積んでみる
車のカタログに記載された荷室容量だけでは、実際の積みやすさは分かりません。
同じ荷室容量でも、床面の高さ、バンパーの張り出し、開口部の形、後席の構造によって、作業の負担は変わります。
購入前には、販売店へ相談したうえで、普段使用している車いすを実車へ積んでみることをおすすめします。
確認するのは、入るかどうかだけではありません。
- どの部分を持つのか
- どのくらい持ち上げるのか
- 身体をひねらずに積めるか
- 荷室の奥まで手が届くか
- 積み込み後に固定できるか
- 車いす以外の荷物も載せられるか
- 雨の日でも作業しやすいか
- 本人が一人でも一連の操作を完了できるか
普段介助する人が複数いる場合は、実際に積む可能性がある人にも試してもらいましょう。
力のある一人だけが積めても、その人が不在のときに困ってしまいます。
車いすの積み込み・収納チェックリスト
車いすについて
- 車いす本体の重量を確認した
- 折りたたみ後の高さ・幅・長さを測った
- フットサポートを外せるか確認した
- 後輪を外す必要があるか確認した
- クッションや付属品を別に収納できる
積み込み動作について
- 車いすを身体の近くで持てる
- 腕を伸ばしたまま持ち上げなくてよい
- 身体をひねらずに積める
- 荷室の奥まで無理なく手が届く
- 毎日続けても負担が大きすぎない
- 本人または普段の介助者が実際に試した
車について
- 荷室床面が高すぎない
- 開口部の幅と高さが足りている
- バンパーの張り出しが大きすぎない
- 後席を簡単に収納できる
- 固定ベルトを取り付けられる場所がある
- 車いす以外の荷物も収納できる
安全面について
- 平坦で安全な場所で作業できる
- 車いす本体を車両側へ固定できる
- 外した部品も動かないよう収納できる
- 夜間に作業するためのライトや反射材がある
- 雨の日に使うタオルや防水マットを準備している
まとめ|「積める車」より「毎日楽に積める車」を選ぶ
車いすの積み込みは、少し手順を変えるだけでも身体への負担を軽減できます。
基本となるポイントは、次のとおりです。
- 車いすを身体の近くで持つ
- 腰だけでなく膝と股関節を使う
- 持ったまま身体をひねらない
- フットサポートや付属品を先に外す
- 一気に全重量を持ち上げない
- 収納後はベルトなどで固定する
- 無理な重量なら収納装置を使用する
- 車の購入前に実際の車いすで試す
車を選ぶときは、「車いすが入るか」だけで判断してはいけません。
本当に大切なのは、本人や介助者が、毎日無理なく積み降ろしできるかどうかです。
数分間の試し積みが、その後何年も続く身体の負担を左右します。
「積める車」ではなく、「毎日楽に積める車」を選ぶこと。
それが、車いす利用者と介助者の両方が、安心して外出を続けるための大切なポイントです。

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