車いすの寸法を測り、車内に収まりそうな中古車が見つかっても、すぐに購入を決めるのは早いかもしれません。
次に確認したいのが、
スロープを安全に上り下りできるか
車内で無理のない姿勢を保てるか
という点です。
車いすが車内に入っても、スロープの傾斜が急だったり、頭上の余裕が少なかったりすると、利用者にも介助者にも大きな負担がかかります。
特に中古福祉車両は、同じ車種名でも年式や仕様によってスロープ、車高降下機能、車いすの固定位置などが異なることがあります。
今回は、購入前に確認したいスロープ角度・室内高・乗車姿勢について解説します。
スロープ角度はカタログの数字だけで決めない
スロープの傾斜が緩やかであるほど、車いすを車内へ引き上げるときの負担は小さくなります。
反対に、傾斜が急になると、介助者は車いすが後ろへ下がらないように支える必要があり、利用者も前後に傾く感覚を強く感じやすくなります。
福祉車両の中には、乗降時に車体後部を下げ、スロープの傾斜を緩やかにする機能を備えた車種があります。日産セレナのチェアキャブでは、車体後部を下げてスロープの勾配を緩やかにし、乗降時の負担を軽減する仕組みが案内されています。
ただし、カタログに記載されているスロープ角度は、メーカーが決めた測定条件での参考値です。
実際の角度は、
- 駐車場所の傾斜
- 道路と歩道の段差
- 車に乗っている人数や荷物
- タイヤやサスペンションの状態
- 車高降下機能の作動状態
などによっても変わります。
カタログの角度が小さいという理由だけで選ばず、普段使用する場所に近い条件で乗降を試してください。
スロープを広げる後方スペースも確認する
スロープ式福祉車両を使用するには、車両後方にスロープを広げるスペースが必要です。
さらに、その後ろには車いすと介助者が待機する場所も必要になります。
確認する範囲は、スロープの長さだけではありません。
- バックドアを開くためのスペース
- スロープを完全に広げるスペース
- 車いすをスロープの正面に置くスペース
- 介助者が車いすの後ろに立つスペース
- 車いすを方向転換させるスペース
まで含めて考えます。
自宅駐車場では使えても、病院や施設の駐車場では後ろの車との間隔が足りず、スロープを広げられないことがあります。
また、電柱、壁、植木、車止めなどが後方にあると、バックドアやスロープが干渉する可能性があります。
購入前には、主に利用する場所の駐車スペースも測っておきましょう。
スロープ角度と一緒に確認したいポイント
フットプレートが接触しないか
車いすをスロープへ進めたとき、フットプレートや足元のフレームが接触することがあります。
特に注意したいのが、
- スロープの入口
- スロープと車内床面の境目
- 車体後部の段差
- スロープの折れ曲がる部分
です。
車いすの寸法が乗車可能な範囲内でも、背もたれやハンドルなどがスロープの格納時に当たる場合があると、トヨタも注意を案内しています。
車いすを車内へ入れるだけで終わらせず、車いすを固定した後にスロープを問題なく格納できるか、バックドアを閉められるかまで確認してください。
前輪が浮いたり横へ流れたりしないか
スロープへ斜めに進入すると、前輪がスロープの端へ寄ったり、車いすが左右に振られたりすることがあります。
電動ウインチが付いていても、車いすが自動的に正しい方向へ進むとは限りません。
一部の車種には左右のウインチベルトの巻き取りを調整し、斜めに進入した車いすの進路を補正する機能がありますが、装備内容は車種や年式によって異なります。
中古車を確認するときは、次の点を試します。
- 車いすをスロープ中央へ合わせやすいか
- 前輪が左右へ振られないか
- ウインチベルトが均等に巻き取られるか
- 介助者が無理なく方向を修正できるか
- スロープ側面から車輪が外れそうにならないか
可能であれば、普段主に介助する家族が実際に操作してください。
電動ウインチがあっても介助は必要
電動ウインチは、車いすを車内へ引き上げる力を補助する装置です。
しかし、車いすの方向を調整したり、後ろへ倒れないように支えたりする操作まで、すべて自動で行うものではありません。
日産も、スロープで乗り降りするときは、車いすの転倒を防ぐために介助者が後方から支えるよう案内しています。
「電動ウインチ付きだから一人でも簡単」と決めつけず、実際の操作手順と必要な介助人数を確認しましょう。
「開口部の高さ」と「室内高」は別の寸法
車いすで乗車するときは、車内の天井高だけでなく、バックドア開口部の高さも確認する必要があります。
車両によっては、
車内では頭上に余裕があるのに、乗り込む途中で頭が開口部に当たる
ことがあります。
確認したい高さは、主に次の2つです。
バックドア開口部の高さ
車いすが車内へ入るときに通過する入口の高さです。
スロープを上っている途中は車いすが傾くため、平らな床にいるときとは頭の位置が変わります。
また、介助用ハンドルやヘッドレストが開口部に当たることもあります。
利用者には普段の姿勢で車いすに座ってもらい、ゆっくり乗り入れながら、頭・ヘッドレスト・介助用ハンドルが当たらないか確認してください。
車いす固定位置の室内高
車いすを固定する位置で、床から天井までどれくらいの高さがあるかを示す寸法です。
例えばHondaでは、「車いす乗車スペース高」を車いす固定位置から測った寸法として掲載しています。あわせて、実際に使用する車いすで乗車確認するよう案内しています。
室内高の数字が、利用者を含めた車いすの全高をわずかに上回っているだけでは、十分とは限りません。
走行中は車体が揺れるため、頭やヘッドレストと天井の間には余裕が必要です。
頭上に入るだけではなく前後左右も確認する
頭が天井に当たらなくても、周囲との間隔が狭いと快適に乗車できません。
車いすを固定した状態で、次の部分を確認します。
- 頭と天井の間隔
- 頭とバックドアガラスの間隔
- 肩と車内側面の間隔
- 肘と内装部品の間隔
- 膝やつま先と前席の間隔
- ヘッドレストと天井の間隔
- 介助用ハンドルと前席の間隔
運転席や助手席を前へ動かせば車いすが入る場合でも、運転者が無理な姿勢になる車は避ける必要があります。
普段運転する人が座席を適切な位置へ調整した状態で、車いすのスペースを確認してください。
車いすの乗車位置で見える景色が変わる
スロープ式の福祉車両では、車いす利用者が一般の座席より低い位置や、車両の後方に乗ることがあります。
そのため、車種によっては、
- 前方が見えにくい
- 窓の位置が高く外が見えない
- 前席の背もたれしか見えない
- 後輪付近の揺れを感じやすい
- 家族と会話しにくい
と感じることがあります。
車いすが乗る場所は、車種や仕様によって異なります。
できれば停車状態の確認だけでなく、車いすに乗った状態で試乗し、実際の視界や揺れ方を確かめましょう。
Hondaも、長時間のドライブや悪路での走行は、車いす利用者の負担になる場合があると案内しています。
試乗では、きれいな直線道路だけでなく、可能な範囲で次のような場所も走ってもらいます。
- 交差点
- カーブ
- 段差のある道路
- 路面の荒れた道路
- 坂道
- 駐車場への出入口
利用者本人が話せる場合は、「怖くないか」「揺れが強くないか」「頭や体が動かないか」を確認してください。
無理のない乗車姿勢を確認する
車いすが車内に入っていても、利用者の姿勢が崩れている場合があります。
特に確認したいのは、
- 頭が前や横へ倒れていないか
- 背中が丸まりすぎていないか
- 骨盤が前へ滑っていないか
- 左右どちらかへ体が傾いていないか
- 膝や足が不自然に曲がっていないか
- フットプレートから足が外れていないか
- 医療機器のチューブが引っ張られていないか
です。
ティルト式やリクライニング式の車いすは、角度によって頭の高さや車いすの全長が変わります。
普段の姿勢だけでなく、休憩時や体調が悪いときに使用する姿勢でも確認しておくと安心です。
姿勢保持が難しい場合は、販売店だけで判断せず、車いすを調整している理学療法士、作業療法士、福祉用具事業者などへ相談しましょう。
車いす固定ベルトとシートベルトは役割が違う
車いすで乗車するときは、
車いす本体を車両へ固定する装置
と、
利用者の体を守るシートベルト
の両方が必要です。
車いす固定ベルトだけでは、利用者の体を守るシートベルトの代わりにはなりません。
また、姿勢を支えるために車いすへ取り付けられた胸部ベルトや骨盤ベルトも、通常は車両のシートベルトとは役割が異なります。日産も、姿勢を支える胸部固定ベルトについて、シートベルトではないため走行中は車両のシートベルトを着用するよう案内しています。
購入前には、車いすを固定した状態で、
- 腰ベルトを適切な位置へ通せるか
- 肩ベルトが首にかからないか
- ベルトがねじれていないか
- 車いすのアームサポートに邪魔されないか
- バックルへ無理なく手が届くか
- ベルトが利用者の腹部を圧迫しないか
を確認します。
日産のチェアキャブでも、腰ベルトと肩ベルトをそれぞれ正しく装着する手順が示されています。
体格や障害の状態によって適切な装着方法が異なる場合は、福祉車両を扱う専門スタッフへ相談してください。
ヘッドレストの位置も確認する
車いすによっては、一般的な自動車座席のようなヘッドレストが付いていないことがあります。
また、ヘッドレストが付いていても、位置が低すぎたり、後頭部から離れすぎたりする場合があります。
走行中の揺れや急ブレーキに備えるためにも、
- 後頭部を支えられる位置にあるか
- 首が前へ押し出されていないか
- 頭とヘッドレストの間が離れすぎていないか
- 天井やバックドアに干渉しないか
- ティルトやリクライニング時にも位置が合うか
を確認してください。
必要に応じて車いす用ヘッドレストの追加や調整を検討しますが、車両への乗車を前提とした安全性については、専門家へ確認することが大切です。
中古車ではスロープと車高降下機能の動作確認が必要
中古福祉車両では、寸法や乗車姿勢だけでなく、福祉装置が正常に動くかも確認します。
特に確認したいのは、
- スロープが最後まで展開できるか
- スロープのロックが確実にかかるか
- スロープが変形していないか
- 表面が滑りやすくなっていないか
- 車高降下機能が正常に作動するか
- 車高が下がった後に元へ戻るか
- 電動ウインチが途中で止まらないか
- ウインチベルトに傷やほつれがないか
- リモコンやスイッチが正常に反応するか
- 警告音や表示が正常に作動するか
です。
スロープを広げただけで確認を終えず、実際に車いすを乗せて、一連の操作を最初から最後まで行ってください。
福祉装置の点検記録や修理履歴が残っているかも、販売店へ確認しましょう。
試乗時の確認チェックリスト
【スロープ】
□ 後方に十分な乗降スペースがある
□ スロープが急すぎない
□ 車いすを中央へ合わせやすい
□ 前輪が左右に流れない
□ フットプレートが接触しない
□ 介助者が無理な姿勢にならない
□ 電動ウインチが正常に作動する
【高さと広さ】
□ 乗車時に頭が開口部へ当たらない
□ 固定位置で頭上に余裕がある
□ ヘッドレストが天井へ当たらない
□ 膝やつま先が前席へ当たらない
□ 運転席を適切な位置に調整できる
□ バックドアを問題なく閉められる
【乗車姿勢】
□ 頭や体が左右へ傾かない
□ 骨盤が前へ滑らない
□ 足がフットプレートに収まる
□ 利用者が前方や窓の外を見られる
□ 車いすを正しい位置へ固定できる
□ シートベルトを適切に装着できる
□ 医療機器やチューブに無理がない
【試乗】
□ 発進や停止時に体が大きく動かない
□ カーブで横へ振られすぎない
□ 段差の衝撃が強すぎない
□ 利用者が不安や苦痛を感じない
□ 家族と会話しやすい
まとめ|車いすが入った後の姿勢まで確認しよう
車いすに合う中古車を探すときは、「車いすが車内に入るか」だけで判断してはいけません。
購入前には、
- スロープの傾斜
- 車高降下機能の有無
- 後方の乗降スペース
- バックドア開口部の高さ
- 車いす固定位置の室内高
- 頭・肩・膝まわりの余裕
- 車いす利用者からの視界
- 走行中の揺れ
- 車いすと利用者の固定方法
を確認する必要があります。
カタログの数値は候補車を絞るためには役立ちますが、実際の乗りやすさや姿勢までは分かりません。
普段使用している車いすを持ち込み、いつも介助する家族が操作し、利用者本人が乗車した状態で試乗することが大切です。
次回は、車いす利用者だけでなく、運転する家族や介助者が購入前に確認しておきたいポイントを解説します。
車いすに合う中古車探し【全3回】
車いすの高さ・幅・長さをまだ測っていない場合は、第1回の記事から確認してください。
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