車いすの寸法を測り、スロープ角度や室内高、乗車姿勢にも問題がなければ、その中古車は候補に残せます。
しかし、最後にもう一つ確認したいことがあります。
それは、
家族や介助者が、毎日の生活の中で無理なく使えるか
という点です。
車いす利用者が安全に乗車できても、スロープの準備や車いすの固定が複雑だったり、介助者が毎回腰を深く曲げなければならなかったりすると、使い続けるのが負担になります。
また、車いすを載せたことで家族が座れない、荷物を置く場所がない、自宅や病院の駐車場でスロープを出せないという問題も起こります。
シリーズ最終回では、車いすに合う中古車を購入する前に、家族や介助者が確認しておきたいポイントを解説します。
普段介助する人が実際に操作する
中古福祉車両を確認するときは、販売店のスタッフに操作してもらうだけでは十分ではありません。
普段、車いすの乗降を介助する家族が、実際に一連の操作を行いましょう。
確認したいのは、次のような操作です。
- バックドアを開ける
- スロープを展開する
- 車高降下機能を作動させる
- 電動ウインチのベルトを引き出す
- 車いすへフックを取り付ける
- 車いすを車内へ誘導する
- 車いすを正しい位置で固定する
- 利用者用シートベルトを装着する
- スロープを格納する
- バックドアを閉める
- 到着後に車いすを降ろす
トヨタは、車いすでの乗降は必ず介助者が行うよう案内しています。Hondaも、車いす利用者の乗降について、介助者が安全に注意して確実に操作するよう案内しています。
販売店のスタッフが簡単そうに操作していても、家族にとって使いやすいとは限りません。
介助者の身長、体力、握力、腰や膝の状態によって、操作のしやすさは変わります。
一度だけではなく、乗車と降車を何回か繰り返し、毎日の介助として続けられそうかを確認しましょう。
腰や膝へ負担がかからないか
福祉車両では、車いすを押す力だけでなく、低い位置にある固定ベルトを扱う動作が介助者の負担になることがあります。
実車確認では、次の姿勢になっていないか確認してください。
- 深くしゃがみ込む
- 腰を曲げたまま作業する
- 車内へ上半身を大きく入れる
- 体をひねった状態でベルトを引く
- 重いスロープを片手で持つ
- 中腰で車いすを支え続ける
- 離れた位置にあるバックルへ手を伸ばす
電動ウインチが付いていても、車いすの向きを調整したり、スロープ上で後方から支えたりする操作は必要です。
日産も、スロープでの乗降時は車いすの転倒を防ぐため、介助者が後方から支えるよう案内しています。
介助者に腰痛や膝痛がある場合は、固定ベルトの位置やスロープの重さまで細かく確認しましょう。
「今は操作できる」だけでなく、数年後も続けられるかという視点が大切です。
運転開始までの流れを最初から試す
販売店では、スロープやウインチだけを個別に操作して終わることがあります。
しかし、日常では車いすを乗せる前後にも作業があります。
実際の外出を想定し、次の流れを最初から最後まで試してみましょう。
1.車を乗降しやすい位置へ移動する
2.周囲の安全を確認する
3.バックドアを開ける
4.スロープを準備する
5.車いすを乗せる
6.車いすを固定する
7.利用者用シートベルトを装着する
8.医療機器や荷物を載せる
9.スロープを格納する
10.バックドアを閉める
11.介助者が運転席へ移動する
操作時間の短さだけで良し悪しを決める必要はありません。
大切なのは、途中で迷わず、無理のない姿勢で、確認を省略せずに操作できることです。
雨の日、暑い日、寒い日、病院の予約時間が迫っているときでも、安全に同じ操作ができそうかを考えてみましょう。
家族全員が座れるか
車いす仕様車は、車いすの乗車位置によって使用できる座席数やシート配置が変わることがあります。
カタログ上の乗車定員だけを見るのではなく、車いすを実際に載せた状態で、誰がどこに座るのかを確認してください。
例えば、次のような場面を想定します。
- 車いす利用者と両親が乗る
- 兄弟や姉妹も一緒に乗る
- 祖父母が同行する
- 介助者が2人必要になる
- チャイルドシートを取り付ける
- 将来、家族構成が変わる
- 通院時に付き添いが同乗する
車種によっては、車いすを載せるために後部座席を格納したり、前方へ移動させたりする必要があります。
Hondaの車いす仕様車でも、車いすを使用する位置やシートの状態によって、乗車できる人数が変わる仕様があります。
購入前には、家族全員で販売店へ行き、いつもの座席配置を再現するのが理想です。
運転席を無理なく調整できるか
車いすを車内へ収めるために、運転席や助手席を前へ移動しなければならない場合があります。
車いすは入っても、運転者の座席が前すぎると、安全で快適な運転ができません。
普段運転する家族が運転席に座り、次の点を確認しましょう。
- ペダルを無理なく操作できる
- ハンドルとの距離が近すぎない
- 背もたれを適切な角度にできる
- 膝がダッシュボードに近すぎない
- ドアミラーを確認できる
- 後方を確認できる
- 長時間運転しても苦しくない
- 車いすや介助用ハンドルが座席に当たらない
Hondaも、車いすの全長と運転可能なシートポジションの両方を確認するよう案内しています。
家族で運転を交代する場合は、最も身長の高い人と低い人の両方で確認してください。
車いすを載せた状態で荷物が置けるか
車いすが車内へ入ると、それまで荷室として使っていた場所の多くを占めることがあります。
日常的に載せる荷物を思い出してみましょう。
- 車いす利用者のバッグ
- おむつや着替え
- クッション
- 毛布
- 雨具
- 吸引器
- 呼吸器
- 酸素ボンベ
- 予備バッテリー
- 歩行器
- ベビーカー
- 買い物袋
- 旅行用の荷物
車いすだけを載せた状態では余裕があるように見えても、医療機器や外出用品を載せると置き場所がなくなることがあります。
可能であれば、普段使用している荷物も持参し、実際に積んでみてください。
走行中に荷物が動くと、車いすや利用者に当たったり、運転操作の妨げになったりするおそれがあります。Hondaとダイハツも、走行時には荷物を確実に収納・固定するよう案内しています。
荷物を床へ置けるかだけでなく、ベルトや収納用品を使って固定できるかまで確認しましょう。
自宅やよく行く場所でスロープを出せるか
販売店の広い駐車場で問題なく乗降できても、実際に利用する場所では同じように操作できるとは限りません。
購入前には、次の場所を確認しておきましょう。
- 自宅の駐車場
- 病院の駐車場
- リハビリ施設
- デイサービス
- 学校や勤務先
- よく利用する店舗
- 親族の家
- 月極駐車場
それぞれの場所で、次のスペースが確保できるかを確認します。
- バックドアを開くスペース
- スロープを広げるスペース
- 車いすをスロープの正面に置くスペース
- 介助者が後ろに立つスペース
- 車いすを方向転換するスペース
車両後方に壁、植木、電柱、車止めなどがあると、バックドアやスロープを十分に広げられないことがあります。
また、駐車場に傾斜があると、販売店で試したときよりスロープが急になる可能性があります。
購入候補の車を自宅まで持って来てもらえる場合は、自宅駐車場で乗降を試せるか販売店へ相談してみましょう。
雨の日の乗降も想像する
車いすでの乗降には一定の時間がかかるため、雨の日には利用者と介助者の両方が濡れやすくなります。
購入前に、次の点も確認しておくと安心です。
- バックドアが雨よけとして使えるか
- 介助者が傘を持たずに操作できるか
- スロープが濡れたとき滑りにくいか
- リモコンを片手で操作できるか
- 濡れた車いすを載せた後の床を掃除しやすいか
- 雨具やタオルの収納場所があるか
- 自宅に屋根のある乗降場所があるか
販売店でスロープ表面の摩耗、汚れ、剥がれなども確認しましょう。
中古車では、スロープの見た目がきれいでも、濡れた状態での使いやすさまでは分かりません。
無理に雨天で試乗する必要はありませんが、日常の乗降場面を具体的に想像することが大切です。
車いす利用者と会話しやすいか
車いす利用者の乗車位置が車両後方になると、運転席や助手席から声をかけにくいことがあります。
特に、本人が体調や不快感を言葉で伝えにくい場合は、表情や姿勢を確認できることが重要です。
車いすを固定した状態で、次の点を確認しましょう。
- 運転席から利用者の様子が見える
- 助手席から振り返って確認できる
- 普通の声量で会話できる
- 利用者の声や合図が運転席まで届く
- 必要なときに介助者が近くへ座れる
- 前席から手を伸ばせる位置にいる
- 車内が暗すぎず表情を確認できる
車内で医療機器を使用する場合は、アラーム音が運転席まで聞こえるかも確認してください。
購入時には停車状態だけでなく、エンジン音や走行音がある状態でも会話できるかを試乗で確かめましょう。
車いす固定装置を目で確認する
電動固定装置や警告表示が付いていても、装置に任せきりにしてはいけません。
車いすを固定した後は、介助者がベルトの状態やフックの位置を直接確認する必要があります。
日産は、一部の車いす仕様車について、警告音や警告灯は固定されていないことへの注意喚起であり、車いすの固定を保証するものではないと説明しています。正しい方法で介助者が確実に固定する必要があります。
購入前には、次の点を実際に確認しましょう。
- フックを車いすの適切なフレームへ掛けられる
- 左右のベルトがねじれていない
- ベルトに傷やほつれがない
- 車いすが前後左右に大きく動かない
- 後部固定装置が確実に作動する
- 利用者用シートベルトを正しく通せる
- バックルへ介助者の手が届く
- 解除操作を迷わず行える
固定方法は車種や年式によって異なるため、購入する車両の取扱説明書を確認してください。
福祉装置を一通り動かして確認する
中古福祉車両では、エンジンやタイヤなど通常の車両部分だけでなく、福祉装置の状態確認が重要です。
販売店では、次の装置を一通り動かしてもらいましょう。
- スロープ
- 電動ウインチ
- 車いす固定装置
- 車高降下機能
- ワイヤレスリモコン
- 警告灯
- 警告音
- 福祉装置用スイッチ
- 固定ベルト
- 手すり
操作時には、次のような異常がないか確認します。
- 途中で止まる
- 動きが極端に遅い
- 左右で動きが違う
- 大きな異音がする
- ガタつきがある
- スロープが変形している
- ベルトに傷やほつれがある
- リモコンの反応が悪い
- スイッチを何度も押さないと動かない
- 車高が元の位置へ戻らない
一度動いたから大丈夫と判断せず、乗車と降車を何回か繰り返してください。
点検記録と修理履歴を確認する
中古車を購入するときは、通常の整備記録に加えて、福祉装置の点検や修理履歴が残っているか確認しましょう。
販売店へ確認したい内容は次のとおりです。
- 福祉装置の点検記録があるか
- ウインチを修理・交換した履歴があるか
- 固定ベルトを交換したことがあるか
- スロープを修理したことがあるか
- 車高降下装置を整備したことがあるか
- リモコンやスイッチを交換したことがあるか
- 福祉装置の取扱説明書が残っているか
- 付属品がすべてそろっているか
車両状態証明書が付いている中古車や、保証が付いている中古車もあります。ダイハツの認定中古車サイトでも、機関・内装・外装・走行距離・修復歴などを確認した車両状態証明書や保証制度が案内されています。
ただし、一般的な中古車保証に福祉装置まで含まれているとは限りません。
「保証付き」という言葉だけで判断せず、スロープ、電動ウインチ、車高降下装置、固定装置などが保証対象になるかを書面で確認しましょう。
故障したときの相談先を確認する
福祉装置が故障すると、車いす利用者を車から降ろせなくなったり、外出できなくなったりする可能性があります。
購入前に、次の内容を販売店へ確認しておきましょう。
- 福祉装置を修理できる店舗はどこか
- 購入店以外でも修理を受けられるか
- 自宅近くに対応店舗があるか
- 故障時の連絡先はどこか
- 部品を取り寄せられるか
- 修理中の代車があるか
- 福祉車両の代車を用意できるか
- 出先で動かなくなった場合の対処方法
- 手動で車いすを降ろす方法
- リモコンが動かない場合の操作方法
遠方の中古車販売店から購入する場合は、納車後の整備を誰に依頼するのか、購入前に決めておく必要があります。
価格の安さだけでなく、購入後に相談できる場所があるかも重要な判断材料です。
家族の誰でも操作できるようにする
いつも介助している人が体調を崩したり、外出できなかったりすることもあります。
そのため、一人だけが操作方法を知っている状態は避けたほうが安心です。
購入前または納車時には、できれば複数の家族が次の操作を練習しましょう。
- スロープの展開と格納
- ウインチベルトの取り付け
- 車いすの乗車と降車
- 車いす固定装置の操作
- 利用者用シートベルトの装着
- 固定装置の解除
- 緊急時の操作
- リモコンの電池交換
操作手順をスマートフォンで動画撮影しておく方法もあります。
ただし、動画だけに頼らず、取扱説明書も車内の分かりやすい場所に保管してください。
将来の変化も考えて選ぶ
現在使用している車いすが問題なく乗っても、数年後に状況が変わる可能性があります。
例えば、
- 子どもの身長や体重が増える
- 車いすが大型になる
- 手動車いすから電動車いすへ替わる
- ティルト機能が必要になる
- ヘッドレストを追加する
- 医療機器が増える
- 介助者の体力が低下する
- 同乗する家族が増える
といった変化が考えられます。
必要以上に大きな車を選ぶ必要はありませんが、現在の寸法や重量が上限に近い場合は注意が必要です。
車いすを交換する予定がある場合は、福祉用具事業者や医療・リハビリの担当者にも相談し、将来使用する可能性がある車いすの大きさを確認しておきましょう。
家族・介助者向け購入前チェックリスト
【乗降操作】
□ 普段介助する人が一人で操作できる
□ スロープを無理なく展開・格納できる
□ ウインチのフックを取り付けやすい
□ リモコンを操作しながら車いすを支えられる
□ 固定ベルトやバックルへ手が届く
□ 腰や膝へ強い負担がかからない
□ 乗車から出発まで迷わず操作できる
【家族の乗車】
□ 必要な人数が座れる
□ チャイルドシートを取り付けられる
□ 運転席を適切な位置に調整できる
□ 介助者が車いす利用者の近くへ座れる
□ 家族で会話しやすい
□ 利用者の表情や体調を確認できる
【荷物】
□ 普段の外出用品を載せられる
□ 医療機器を安全に置ける
□ 荷物を固定する場所がある
□ 買い物袋を置ける
□ 車いすを載せても必要な収納が残る
【使用場所】
□ 自宅でバックドアを開けられる
□ 自宅でスロープを広げられる
□ 病院や施設で乗降できる
□ 介助者が後方に立てる
□ 雨の日にも操作できる
□ 車両の高さや幅が駐車場に合っている
【中古車の状態】
□ スロープが正常に動く
□ 電動ウインチが途中で止まらない
□ 固定装置が正常に作動する
□ 車高降下機能が正常に作動する
□ ベルトに傷やほつれがない
□ リモコンや警告灯が正常に作動する
□ 福祉装置の点検記録がある
□ 取扱説明書と付属品がそろっている
□ 福祉装置が保証対象になっている
□ 故障時の修理先が決まっている
まとめ|家族が毎日使える車を選ぼう
車いすに合う中古車を選ぶときは、車いすの寸法や室内高だけでなく、家族や介助者の使いやすさまで確認する必要があります。
特に確認したいのは、
- 普段介助する人が一人で操作できるか
- 腰や膝へ強い負担がかからないか
- 家族全員が必要な座席に座れるか
- 運転席を適切な位置に調整できるか
- 医療機器や外出用品を積めるか
- 自宅や病院でスロープを広げられるか
- 車いす利用者の様子を確認できるか
- 福祉装置が正常に作動するか
- 保証や修理体制が整っているか
という点です。
販売店のスタッフが操作できることと、家族が毎日無理なく操作できることは同じではありません。
普段使用している車いすと荷物を持ち込み、実際に介助する家族が、乗車から降車まで一連の操作を試してください。
第1回で確認した車いすの寸法、第2回で確認したスロープ角度・室内高・乗車姿勢、そして今回の家族や介助者の使いやすさ。
この3つを購入前に確認することで、「車いすは入ったけれど使いにくい」という失敗を防ぎやすくなります。
車いすに合う中古車とは、車いすが車内に収まる車ではありません。
車いす利用者と家族の両方が、安全に無理なく外出できる車です。
車いすに合う中古車探し【全3回】
スロープの傾斜、室内高、頭上の余裕、車いす利用者の乗車姿勢を確認したい場合は、第2回の記事をご覧ください。
◀ 前の記事
スロープ角度・室内高・乗車姿勢|車いすに合う中古車探し【全3回・第2回】
シリーズを最初から読む場合はこちらです。
◀ シリーズ第1回
購入前に測る車いすの寸法|車いすに合う中古車探し【全3回・第1回】

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