車いすで一人でホテルに泊まるとき、気になることがあります。
ホテルのスタッフには、どこまで手伝ってもらえるのか?
荷物を運んでもらう。
家具を動かしてもらう。
高い場所の物を取ってもらう。
ここまではお願いしやすそうです。
では、車いすからベッドへの移乗は?
実は厚生労働省は、車いす利用者がベッドへ移動する際に介助を求めることも、障害者が社会的障壁の除去を求める例として明示しています。
ただし、ここには大事な注意点があります。
介助をお願いできることと、ホテルが必ずその介助をしなければならないことは同じではありません。
今回は、ホテルの「合理的配慮」と、実際の介助について整理します。
ホテルにも「合理的配慮」の提供義務がある
2024年4月1日から、障害者差別解消法によって民間事業者にも合理的配慮の提供が義務化されました。
ホテルや旅館も対象です。
合理的配慮とは、簡単にいえば、
障害によって利用しにくい状況があるとき、過重な負担にならない範囲で、その障壁を取り除くための対応をすること
です。
つまり、
「うちは普通こうなっていますから」
だけで終わらせるのではなく、利用者が何に困っているのかを聞き、対応できる方法を考えることが求められます。
車いす利用者がお願いできること
厚生労働省は、宿泊施設で障害者が求める対応の具体例を挙げています。
車いす利用者に関係するものでは、
- 部屋に入れるようベッドやテーブルを移動してもらう
- ベッドへ移動する際に介助を求める
- 高い場所にある物を取ってもらう
などがあります。
ここで注目したいのが、ベッドへの移動介助まで例示されていることです。
「ホテルは介護施設ではないから、身体に触れるお願いは一切してはいけない」
という話ではありません。
必要な配慮として、ホテル側に相談することはできます。
介助を頼んだだけで宿泊拒否にはならない
2023年12月の旅館業法改正では、宿泊施設に過剰な要求を繰り返すなど一定の場合に、宿泊を拒否できる規定が追加されました。
しかし厚生労働省は、
障害者が社会的障壁の除去を求めることは、この新しい宿泊拒否事由には該当しない
としています。
その具体例の一つが、
「車いす利用者がベッドに移動する際に介助を求めること」
です。
つまり、
「ベッドへの移乗を少し手伝ってもらえませんか?」
と尋ねたこと自体を理由に、
「そういう要求をする方は宿泊できません」
とはできないということです。
ただし「必ず移乗介助してくれる」という意味ではない
ここが一番重要です。
厚生労働省が「介助を求めることは宿泊拒否事由ではない」としていることと、
すべてのホテルに移乗介助を実施する義務があること
は別の話です。
合理的配慮は、どんな要求でも必ず実施しなければならない制度ではありません。
対応による負担が過重かどうかは、
- ホテルの業務への影響
- 物理的・技術的に可能か
- 人員や体制
- 費用や負担
- 事業規模
などを個別に考えて判断するとされています。
たとえば同じ「ベッドへの移乗」でも、
軽く身体を支えてもらえば済む人と、複数人で身体を持ち上げる必要がある人では、ホテル側の負担も安全上の問題も違います。
だから、一律に「できる」「できない」とは言えません。
できない場合も、そこで話を終わらせるものではない
合理的配慮で大切なのが、建設的な対話です。
希望した方法が難しい場合でも、
「できません」
だけで終わるのではなく、別の方法で障壁を取り除けないかを利用者と事業者が話し合うことが重要だとされています。
厚生労働省も、安全上の懸念などがある場合には、障害の状況や提供できる配慮を検討し、代替案を提示することが重要だとしています。
たとえば、
「スタッフによる身体介助は難しいが、ベッドの位置なら変更できる」
「この部屋では難しいが、別の客室なら車いすを横付けできる」
といった解決方法が考えられます。
希望した介助ができないことと、宿泊そのものができないことを分けて考える必要があります。
「配慮」と「介助」の境界は全国一律ではない
ここは鉄道との大きな違いです。
鉄道では、駅員による乗降介助など一定の対応方法がかなり標準化されています。
一方、ホテルでは、
「車いす利用者には全国どのホテルでもここまで身体介助を行う」
という統一されたサービス内容があるわけではありません。
ホテルの設備、人員、スタッフの経験、必要な介助内容によって対応は変わります。
だから、一人で宿泊する場合は特に、
ホテルがバリアフリーか
だけでなく、
自分が必要とする手助けをそのホテルで受けられるか
まで確認する必要があります。
一人で泊まるなら「少しだけ介助が必要な場面」を確認する
一人で旅行できる車いす利用者でも、すべてを完全に自力で行っているとは限りません。
たとえば、
- 重いドアだけ開けてほしい
- ベッドを少し動かしてほしい
- 荷物を部屋まで運んでほしい
- 高い場所の物を取ってほしい
- 移乗時だけ少し支えてほしい
ということがあります。
問題になるのは、「少しだけ」がホテル側には伝わらないことです。
「介助が必要です」とだけ伝えると、どの程度の介助なのか判断できません。
一人で泊まるなら、
何は自分でできて、どこだけ手伝ってほしいのか
を具体的に伝えるほうがホテル側も対応を判断しやすくなります。
介助者がいる場合はホテル側に必要な対応も変わる
介助者同行なら、移乗やトイレ、入浴などの身体介助を同行者が行える場合があります。
その場合、ホテルに必要なのは身体介助ではなく、
- ベッドの位置を変える
- 車いすが通れるよう家具を移動する
- シャワーチェアを用意する
- 荷物を運ぶ
といった環境面の調整だけになることもあります。
同じ車いす利用者でも、
一人で泊まるのか、介助者と泊まるのかでホテルに求める配慮は大きく変わります。
これが、このシリーズで一人旅と介助者同行を分けて考えている理由です。
「車いすだから泊まれません」と言われたら
障害があることだけを理由に宿泊を拒否することは、原則として認められていません。
厚生労働省は、事前に障害を申告しなかったことだけを理由に宿泊を拒否することも、不当な差別的取扱いになるとしています。
もし、
「車いすの方は対応できません」
と言われたら、
何が対応できないのか
を確認することが大切です。
客室に入れないのか。
トイレが使えないのか。
お願いした身体介助ができないのか。
それとも、車いす利用者だから一律に断っているのか。
理由によって話はまったく違います。
まとめ|ホテルは介護施設ではない。でも相談してはいけないわけでもない
ホテルスタッフに身体介助をお願いすることに、遠慮しすぎる必要はありません。
厚生労働省も、車いす利用者がベッドへの移動介助を求めることを、社会的障壁の除去を求める例として明示しています。
一方で、
頼めば必ず対応してもらえるわけでもありません。
合理的配慮では、利用者が必要としていることと、ホテル側が対応できることを具体的にすり合わせることが重要です。
特に車いすで一人旅をするなら、
「介助が必要か」ではなく、「どの動作に、どんな手助けが必要か」
まで整理しておく。
それが、ホテル選びの重要なポイントになります。
次回は、この考え方を使って、予約サイト・ホテル公式サイト・問い合わせをどう使い分ければ、自分に合うホテルを探せるのかを具体的に紹介します。
車いすで泊まれるホテルの選び方【全4回】
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