重度障害者にとって、外出は体力面・精神面の両方で大きな負担になることがあります。
車椅子で利用できる交通手段が限られているだけでなく、移乗、排せつ、食事、意思疎通などの介助が必要になることもあるためです。
しかし、障害福祉サービスや自治体独自の支援制度を適切に利用すれば、買い物や余暇活動、通院などの外出負担を軽減できる可能性があります。
ここで注意したいのは、一般に「外出支援」と呼ばれているものが、ひとつの制度ではないことです。
国の障害福祉サービスである「同行援護」「行動援護」「重度訪問介護」「居宅介護」と、市区町村が独自に実施する「移動支援事業」では、対象者や利用目的、申請方法が異なります。
本記事では、2026年7月時点の公式情報をもとに、重度障害者が利用できる主な外出支援制度と、申請する際の注意点をわかりやすく解説します。
重度障害者が外出で直面する主な課題
利用できる移動手段が限られている
車椅子ユーザーの場合、駅やバス停がバリアフリー化されていても、すべての車椅子で問題なく利用できるとは限りません。
特に大型の電動車椅子では、車椅子の寸法や重量、スロープの耐荷重、車内の固定スペースなどによって利用できる車両が限られることがあります。
また、移動手段を確保できても、自宅から駅までの移動、乗り換え、外出先での排せつや食事などに介助が必要な場合があります。
制度の違いがわかりにくい
障害者の外出を支援する制度には、次のようなものがあります。
- 移動支援
- 同行援護
- 行動援護
- 重度訪問介護
- 居宅介護の通院等介助
- 自治体の福祉タクシー券
- 介護保険の通院等乗降介助
名称が似ていても、対象となる障害や利用できる外出目的は異なります。
さらに、移動支援や福祉タクシー券は自治体ごとに条件が違うため、隣の市区町村と同じ内容で利用できるとは限りません。
交通費と介助費が別にかかることがある
ヘルパーを利用できる制度であっても、電車やバスの運賃、タクシー料金、施設の入場料まで公費で負担されるとは限りません。
利用者本人の交通費に加えて、同行するヘルパーの交通費や入場料、食事代などを利用者が負担する制度もあります。
制度の利用料だけで判断せず、外出全体でいくら必要になるのかを確認することが大切です。
重度障害者の外出を支える主な制度
| 制度・サービス | 主な対象者 | 主な利用場面 | 実施主体 |
|---|---|---|---|
| 移動支援 | 自治体が定める障害者・障害児 | 買い物、余暇、社会参加など | 市区町村 |
| 居宅介護の通院等介助 | 通院時に介助が必要な障害者・障害児 | 通院、官公署での手続きなど | 障害福祉サービス |
| 同行援護 | 移動に著しい困難がある視覚障害者 | 外出時の情報提供、移動援護 | 障害福祉サービス |
| 行動援護 | 行動上著しい困難がある知的・精神障害者 | 危険回避、移動、食事、排せつなど | 障害福祉サービス |
| 重度訪問介護 | 常時介護が必要な重度障害者 | 日常生活全般と外出時の介護 | 障害福祉サービス |
| 福祉タクシー券 | 自治体が定める障害者 | タクシー運賃などの助成 | 市区町村 |
| 通院等乗降介助 | 原則として要介護1以上の人 | 介護保険による通院時の乗降介助 | 介護保険 |
厚生労働省は、障害福祉サービスを、個別に支給決定する制度と、市区町村が地域の状況に応じて実施する地域生活支援事業に分けています。移動支援は後者に該当するため、自治体による違いが大きい制度です。
移動支援事業とは
移動支援事業は、屋外での移動が難しい障害者や障害児に対して、ヘルパーが外出に同行する制度です。
買い物、散歩、趣味、イベントへの参加など、社会生活上必要な外出や社会参加を目的とした外出に利用できることがあります。
ただし、移動支援は全国一律の障害福祉サービスではありません。
市区町村が地域生活支援事業として実施しているため、次の内容は自治体によって異なります。
- 対象となる障害や等級
- 利用できる外出目的
- 1か月に利用できる時間
- 身体介護の有無
- 通勤・通学・通所への利用
- 通院への利用
- 利用者の自己負担
- ヘルパーの交通費や入場料
「ほかの自治体で利用できたから、自分の自治体でも利用できる」とは限らない点に注意が必要です。
【2026年度の参考例】新宿区の移動支援
新宿区が2026年7月時点で公開している移動支援の案内では、主な対象者は次のように定められています。
- 重度視覚障害者・障害児
- 知的障害者・障害児
- 全身性障害者・障害児
- 精神障害者
新宿区でいう全身性障害者とは、原則として「両上肢機能障害1級かつ両下肢機能障害1級」の身体障害者です。
個別支援のほか、最大4人までのグループ支援があり、事前の聞き取り調査によって身体介護の有無が決定されます。
ただし、新宿区では、移動支援を通院の介助には利用できません。
通院については、障害福祉サービスである「居宅介護の通院等介助」で対応することとされています。
また、通勤、通学、通所は原則として自由に利用できるものではなく、本人や家庭の状況などを踏まえ、区が個別に必要性を認めた場合に限られます。
新宿区における申請から利用までの流れ
新宿区の移動支援は、次の流れで利用します。
- 新宿区へ利用申請をする
- 区職員による聞き取り調査を受ける
- 利用できる時間数などの支給決定を受ける
- 地域生活支援サービス受給者証を受け取る
- 利用する事業所を探して契約する
- 事業所へ予約してサービスを利用する
申請から支給決定までは、約2週間から1か月かかると案内されています。
また、支給決定を受けても、希望する日時に対応できる事業所がすぐに見つかるとは限りません。利用予定がある場合は、早めに申請と事業所探しを始めることが大切です。
新宿区の2026年度の自己負担
新宿区では、生活保護世帯と区民税非課税世帯は、移動支援の自己負担が無料です。
区民税課税世帯は本来10%負担ですが、2027年3月31日までは、新宿区独自の軽減措置によって3%負担となっています。
ただし、外出中にかかるヘルパーの交通費は、原則として利用者負担です。施設の入場料や食事代についても、ヘルパー分を利用者が負担する場合があります。
移動支援以外の外出支援制度
障害の状態や外出目的によっては、自治体の移動支援ではなく、国の障害福祉サービスが優先されます。
居宅介護の通院等介助
居宅介護には、通院などのための移動を支援する「通院等介助」があります。
通院時の移動、乗り降り、受診に必要な手続きなどについて、支援を受けられる場合があります。
身体介護を伴う通院等介助については、障害支援区分や歩行、移乗、移動、排せつなどの状態に関する要件があります。
自治体の移動支援で通院が対象外となっている場合でも、居宅介護の通院等介助を利用できる可能性があります。
「移動支援が使えない」と言われた時点で諦めず、通院等介助の対象にならないか確認しましょう。
同行援護
同行援護は、視覚障害によって移動に著しい困難がある人を対象とする障害福祉サービスです。
ヘルパーが外出に同行し、移動に必要な情報の提供、移動の援護、外出時に必要な支援を行います。
対象かどうかは、視力だけでなく、視野、夜盲、移動障害などを含むアセスメントによって判断されます。同行援護の利用については、障害支援区分の認定は必要ありません。
行動援護
行動援護は、知的障害または精神障害によって行動上著しい困難があり、常時介護を必要とする人を対象としたサービスです。
外出時の移動介護だけでなく、行動する際に生じる危険を回避するための支援、食事、排せつなどの介助も含まれます。
利用には、障害支援区分や行動関連項目に関する要件があります。
重度訪問介護
重度訪問介護は、重度の肢体不自由、または重度の知的障害・精神障害によって常時介護を必要とする人に対し、日常生活全般を総合的に支援する制度です。
居宅内の介護だけでなく、外出時の移動中の介護もサービスに含まれています。
対象となるには、原則として障害支援区分4以上で、身体状態または行動関連項目について所定の条件を満たす必要があります。
すでに重度訪問介護、同行援護、行動援護などを利用している場合、外出支援の内容が重なるため、自治体の移動支援と併用できないことがあります。
福祉タクシーと介護タクシーの違い
「福祉タクシー」と「介護タクシー」は似た言葉ですが、必ずしも同じサービスではありません。
さらに、自治体が交付する「福祉タクシー券」と、車椅子対応車両を使った「福祉タクシー」も別のものです。
| 種類 | 内容 | 介助 | 費用 |
|---|---|---|---|
| 自治体の福祉タクシー券 | タクシー料金の一部を助成する制度 | 原則として介助を保証する制度ではない | 自治体によって異なる |
| 福祉タクシー | 車椅子利用者などを対象としたタクシー輸送 | 事業者や契約内容による | 運賃、迎車料、機材費など |
| 自費の介護タクシー | 車両による移送と乗降などの介助 | 事業者のサービス範囲による | 原則として全額自己負担 |
| 介護保険の通院等乗降介助 | 訪問介護として行う通院時の乗降介助 | ケアプランに基づいて実施 | 介助部分は保険対象、運賃は対象外 |
国土交通省では、福祉タクシーを、一般タクシー事業者が福祉車両を使用して行う輸送や、障害者などに利用者を限定して行う輸送として案内しています。
介護保険を使える介護タクシー
介護保険で利用できるのは、一般に「介護タクシー」と呼ばれるサービスすべてではありません。
介護保険の対象となるのは、指定訪問介護事業所が提供する「通院等乗降介助」などで、次のような条件があります。
- 原則として要介護1以上である
- ケアマネジャーによるアセスメントを受ける
- ケアプランにサービスが位置づけられている
- 指定訪問介護事業所がサービスを提供する
介護保険の対象になるのは、乗車前後の移動や乗降、受診手続きなどの介助部分です。
自宅から病院までのタクシー運賃そのものは、介護保険の対象ではありません。
また、病院内での長時間の付き添いが、すべて介護保険で認められるわけではありません。
必要に応じて、介護保険外の自費サービスを組み合わせることがあります。
予約時に確認したい料金
福祉タクシーや介護タクシーを予約するときは、次の料金を確認しましょう。
- タクシー運賃または時間制運賃
- 迎車料金
- 予約料金
- 乗降介助料金
- 室内から車両までの介助料金
- 車椅子やリクライニング車椅子の使用料金
- ストレッチャー使用料金
- 階段介助料金
- ヘルパー追加料金
- 待機料金
- 高速道路や駐車場の料金
「車椅子のまま乗れる」という理由だけで選ばず、どこからどこまで介助してもらえるのかを事前に確認することが大切です。
【2026年度の参考例】足立区の福祉タクシー・自動車燃料助成券
足立区では、一定の障害等級に該当する外出困難な身体障害者・知的障害者に対して、「福祉タクシー・自動車燃料助成券」を年1回交付しています。
対象となる主な障害等級は次のとおりです。
- 下肢、体幹、移動、平衡機能に関する障害を含む1級から3級
- 視覚障害を含む1級または2級
- 一定の内部障害を含む1級
- 愛の手帳1度または2度
特別養護老人ホームや障害者施設などに入所している人は対象外です。
2026年度の交付額
新規に申請する場合、申請月によって交付額が変わります。
| 申請月 | 交付冊数 | 合計額 |
|---|---|---|
| 4月~7月 | 3冊 | 42,000円分 |
| 8月~11月 | 2冊 | 28,000円分 |
| 12月~3月 | 1冊 | 14,000円分 |
1冊は14,000円分で、500円券24枚と100円券20枚がつづられています。
「毎月24枚交付される」という制度ではありません。500円券が1冊に24枚入っているという意味です。
助成券は、足立区と契約しているタクシー事業者の運賃、または区指定のガソリンスタンドでの給油料金に使用できます。
タクシーで利用する場合は、本人が乗車していることが必要です。家族や介護者だけの乗車には利用できません。
また、おつりは出ないため、券面を超えた不足分は現金などで支払います。
足立区の例は、あくまでひとつの自治体の制度です。
自治体によって、対象等級、所得制限、交付額、使える事業者、燃料費との選択制などが異なります。
障害福祉サービスの利用者負担
国の障害福祉サービスは、原則としてサービス費用の1割負担ですが、所得に応じて1か月あたりの負担上限額が決められています。
2026年7月時点で厚生労働省が案内している、18歳以上の障害者の主な負担上限月額は次のとおりです。
| 所得区分 | 負担上限月額 |
|---|---|
| 生活保護受給世帯 | 0円 |
| 市町村民税非課税世帯 | 0円 |
| 一般1 | 9,300円 |
| 一般2 | 37,200円 |
一般1と一般2の判定には、市町村民税所得割額などの条件があります。
18歳以上の障害者について、所得を判定する際の世帯範囲は、原則として本人と配偶者です。
ただし、移動支援は自治体の地域生活支援事業であるため、国の障害福祉サービスと同じ自己負担になるとは限りません。
利用料、月額上限、減免措置は、住んでいる自治体へ確認してください。
また、サービス利用料とは別に、次の実費が必要になる場合があります。
- 本人とヘルパーの交通費
- タクシー運賃
- 入場料
- 食事代
- 駐車料金
- 車椅子やストレッチャーなどの機材費
制度を利用するための申請手順
制度によって細かな手続きは異なりますが、基本的には次の順番で進めます。
1.利用したい外出内容を整理する
まずは、何のために、どの程度の支援が必要なのかを整理します。
例えば「外出支援を使いたい」とだけ伝えるよりも、次のように具体的に説明したほうが、適切な制度につながりやすくなります。
- 月2回、買い物に行きたい
- 1人では電動車椅子で電車に乗れない
- 月1回の通院に介助が必要
- 外出先でトイレ介助が必要
- 視覚障害があり、移動中の情報提供が必要
- 行動障害があり、危険回避の支援が必要
2.市区町村の障害福祉窓口へ相談する
住んでいる市区町村の障害福祉担当窓口へ相談します。
どの制度を申請すべきかわからない場合は、
「自分の障害と外出目的で利用できる制度を教えてください」
と伝えれば問題ありません。
地域の相談支援事業所や基幹相談支援センターでも、利用できる制度や申請方法について相談できます。
3.申請と聞き取り調査を受ける
申請後、本人の障害状態、生活状況、家族の介護状況、希望する外出、必要な介助などについて聞き取りが行われます。
制度によっては、障害支援区分の認定や、サービス等利用計画案の作成が必要です。
サービス等利用計画は、相談支援専門員に作成してもらう方法のほか、自治体の運用によっては本人や家族がセルフプランを提出する方法もあります。
必要書類は自治体や制度によって異なります。
障害者手帳、本人確認書類、診断書、医師の意見書などが必要になることもありますが、すべての制度で医師の意見書が必須というわけではありません。
申請前に窓口へ確認しましょう。
4.支給決定と受給者証の交付を受ける
自治体が必要性を審査し、利用できるサービス、時間数、期間、自己負担額などを決定します。
支給が認められると、受給者証などが交付されます。
5.サービス提供事業所を探して契約する
受給者証が交付されても、自動的にヘルパーが派遣されるわけではありません。
利用者自身や相談支援専門員が、対応できる事業所を探して契約します。
特に次の条件がある場合は、対応できる事業所が限られることがあります。
- 大型電動車椅子を使用している
- 二人介助が必要
- 医療的ケアが必要
- 早朝や夜間に利用したい
- 土日祝日に利用したい
- 長時間の外出を希望している
支給決定を待ってから探し始めるのではなく、申請と並行して事業所の情報を集めておくと安心です。
申請前に確認しておきたい質問
自治体の窓口や事業所へ相談するときは、次の項目を確認しましょう。
- 買い物や散歩に利用できるか
- 趣味やイベント参加に利用できるか
- 通院に利用できるか
- 通勤、通学、通所に利用できるか
- 自宅以外から利用を開始できるか
- 外出先での排せつや食事介助に対応できるか
- ヘルパーの交通費は誰が負担するか
- ヘルパーの入場料や食事代は誰が負担するか
- 家族が一緒に外出しても利用できるか
- 1回または1か月の利用時間に上限があるか
- キャンセル料はかかるか
- 二人介助を依頼できるか
- 電動車椅子の種類や重量に制限があるか
- 医療機器を使用したまま外出できるか
制度上は利用可能でも、事業所の人員や設備によって対応できない場合があります。
自治体への制度確認と、事業所への実務的な確認は、分けて行うことが重要です。
まとめ:制度名ではなく「外出目的」から相談しよう
重度障害があっても、制度やサービスを適切に組み合わせることで、外出の負担を減らせる可能性があります。
ただし、すべての外出に利用できる万能な制度があるわけではありません。
買い物や余暇活動であれば移動支援、視覚障害があれば同行援護、行動上の支援が必要であれば行動援護、常時介護が必要な重度障害者であれば重度訪問介護、通院であれば居宅介護の通院等介助が候補になります。
さらに、移動の車両が必要な場合は、福祉タクシーや介護タクシー、自治体のタクシー料金助成を組み合わせて検討します。
大切なのは、最初から制度名を決めつけないことです。
「どこへ行きたいのか」
「何が一人では難しいのか」
「どのような介助が必要なのか」
この3点を整理し、市区町村の障害福祉窓口や相談支援事業所へ伝えてください。
制度が複雑であっても、相談支援専門員や自治体職員と一緒に進めれば、申請を一人で抱え込む必要はありません。
外出を諦める前に、まずは住んでいる地域で利用できる制度を確認するところから始めてみましょう。
※本記事は2026年7月時点の公式情報をもとに作成しています。移動支援や福祉タクシー券の条件、助成額、利用者負担などは自治体によって異なり、年度途中に変更される場合があります。実際に利用する際は、必ずお住まいの市区町村やサービス提供事業所へ最新情報をご確認ください。

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