子どもや高齢の親を抱きかかえて車に乗せ、車いすを畳んで荷室へ積む。
通院や買い物が終わったら、帰りも同じ作業を繰り返します。
「まだ抱っこできるから、福祉車両はもう少し先でいい」
そう思っていても、本人の体は少しずつ大きくなり、介助する家族の腰や腕にも負担が積み重なっていきます。
とはいえ、福祉車両は決して安い買い物ではありません。
- どのタイミングで買い替えたのか
- 軽自動車と普通車のどちらを選んだのか
- 実際に買って生活は楽になったのか
- 買ってから後悔したことはないのか
カタログでは分からない、購入者の本音が気になるところです。
そこで今回は、医療的ケア児の家族、障害のある家族、高齢の親や配偶者を介助する人など、複数の福祉車両購入体験談を調査しました。
特定の一人をモデルにした体験談ではなく、購入者の声に共通していた、
「どう選んだか」→「どこで迷ったか」→「買ってどうだったか」→「後悔はないか」
という気持ちの流れに沿って紹介します。
福祉車両を購入した人は、なぜ買い替えを考えたのか
購入体験談を調べてみると、最初から積極的に福祉車両を探していた家族ばかりではありません。
多くの家族が、しばらくは一般的な車を使いながら、抱っこや移乗で対応していました。
子どもの成長で抱っこ移乗が難しくなった
日産セレナの福祉車両を購入した家族は、それまで子どもを抱きかかえてカーシートに乗せていました。
しかし、子どもの体が大きくなるにつれて、玄関から車まで運ぶ途中や、車内へ乗せるときに頭や足をぶつけそうになる場面が増えたそうです。
さらに介助する母親の腰痛も悪化し、子どもと介助者の両方に負担がかかっていると感じたことから、福祉車両への買い替えを考え始めています。
医療的ケア児家族の購入体験でも、子どもの成長によって抱っこでカーシートへ乗せることが難しくなったことが、福祉車両を検討するきっかけとして挙げられています。
「抱っこできなくなったから」ではなく、
抱っこはできるけれど、毎回かなり無理をしている
という段階で検討を始めた家族が多いのです。
車いすや医療機器を運ぶ荷物が増えた
医療的ケアが必要な子どもとの外出では、車いすやバギーだけでなく、呼吸器、吸引器、酸素、注入用品、着替えなど、多くの荷物を運ぶことがあります。
呼吸器を使用している子どもの家族は、荷物が多く、バギーで移動したほうが楽だったことから、障害児用バギーを購入するタイミングで福祉車両も探し始めています。
本人だけが乗れればよいのではありません。
車いす、医療機器、ケア用品、介助者を含めて安全に移動できるか
という問題が、買い替えを考える大きな理由になります。
本人が家族に遠慮するようになった
移乗の負担は、介助する人だけの問題ではありません。
高齢の親や配偶者を介助するために福祉車両を購入した5人の座談会では、介助される本人が「家族に負担をかけている」と気を使っていたことも語られています。
一般車では3人がかりだった移乗が、福祉車両では一人でできるようになり、本人も気軽に外出できるようになったという事例が紹介されています。
福祉車両を考える目安は、単に「乗せられるかどうか」ではありません。
- 乗せ降ろしのたびに介助者が無理をしている
- 本人が家族への負担を気にしている
- 外出する回数が以前より減っている
- 通院や送迎が家族にとって大仕事になっている
このような変化が出てきたときが、情報収集を始めるタイミングです。
購入者は福祉車両をどう選んだのか
福祉車両選びというと、スロープの長さや車内高などのスペックに目が行きがちです。
もちろん数値の確認は重要ですが、実際の購入者は、最初に自分たちの生活を整理し、その後に条件に合う車を探していました。
最初に考えたのは「誰が何人で乗るか」
まず確認したいのは、車いすの寸法よりも、普段どのような人数で乗るかです。
- 本人と介助者の2人が中心なのか
- きょうだいや祖父母も一緒に乗るのか
- 通院や通学だけに使用するのか
- 買い物や旅行にも使用するのか
- 車いすの隣に介助者が座る必要があるのか
たとえば、近距離の通院や通学で、主に親子2人で乗る家族からは、軽自動車の福祉車両でも十分だったという声があります。
軽自動車は価格や維持費を抑えやすく、狭い道や駐車場でも扱いやすい点がメリットです。
一方で、家族全員が乗る場合や、車内で医療的ケアをする場合には、軽自動車ではスペースが足りない可能性があります。
福祉車両は「車いすが入るか」だけでなく、
車いすが乗った状態で、家族が必要な座席数を確保できるか
まで確認しなければなりません。
日常的に運転・介助する人を基準にした
車を選ぶときは、家族全員の希望を聞く必要があります。
ただし、実際に毎日の送迎や通院を担当する人がいるなら、その人が扱いやすいことが重要です。
確認したいのは、次のような点です。
- 車体の大きさに不安がないか
- 自宅や病院の駐車場に入れやすいか
- スロープを一人で展開できるか
- 車いす固定装置を無理なく操作できるか
- 雨の日でも乗せ降ろしできそうか
- 運転席から本人の様子を確認できるか
日産の購入体験談では、展示会や他社の車も調べたものの、短時間の体験だけでは日常生活で使用するイメージが湧かなかったと語られています。
その後、専門知識のある担当者から、実際の生活に沿った使い方の説明を受け、家族が納得できたことが購入の決め手になりました。
車いすだけでなく、本人が座った状態で確認した
福祉車両のカタログには、乗車できる車いすの目安寸法が掲載されています。
しかし、車いす単体が入っても、本人が安全で快適に乗れるとは限りません。
実車確認では、次の点まで見る必要があります。
- 頭が天井に近すぎないか
- 足先やフットレストが車内に収まるか
- リクライニングした状態でも乗れるか
- 本人の視界や姿勢に無理がないか
- シートベルトを正しく装着できるか
- 介助者が車いすを固定しやすいか
- 医療機器を安全に置けるか
HondaもN-BOX車いす仕様車について、車いすの種類やタイプによって乗車できない場合があると案内しています。
また、スロープの耐荷重や車いすの固定、シートベルトの着用など、安全上の条件も確認する必要があります。
可能であれば、普段使っている車いすやバギーに本人が乗った状態で、販売店へ持ち込んで確認したほうが安心です。
購入前にどこで迷ったのか
体験談を調べると、購入者が迷ったポイントは車種だけではありませんでした。
「現在の使いやすさ」と「数年後も使えるか」の間で、多くの家族が悩んでいます。
軽自動車か普通車か
軽自動車の福祉車両には、次のようなメリットがあります。
- 車体が小さく運転しやすい
- 狭い道路や駐車場に対応しやすい
- 車両価格や維持費を抑えやすい
- 親子2人など少人数の移動に向いている
- 福祉車両以外の用途にも使いやすい
2025年に実施された3,133人への調査では、実際に購入された福祉車両の車種でN-BOXが1位となりました。
同調査では、介助機能だけでなく、普段使いのしやすさや手頃な価格も重視されていることが分かっています。
一方、普通車には次のような余裕があります。
- 家族全員で乗りやすい
- 車いすの隣に介助者が座りやすい
- 医療機器や荷物を積みやすい
- 車内でケアやおむつ交換をしやすい
- 将来、車いすが大きくなっても対応しやすい
たとえばシエンタの車いす仕様車には、介助者が車いす利用者の隣に座れる仕様や、リクライニング車いす、全長の長い車いすに対応する仕様があります。
車いすが運転席に近い位置まで乗り入れられるタイプもあり、必要なケアや家族構成によって選択肢が変わります。
軽自動車と普通車のどちらが優れているという話ではありません。
少人数での近距離移動が中心なら軽自動車、家族全員での外出や医療的ケア、将来の成長まで考えるなら普通車が候補になりやすいでしょう。
今の体格に合わせるか、将来に備えるか
障害のある子どもの場合、現在の車いすやバギーが数年後も同じとは限りません。
成長に伴って、より大きな車いすや姿勢保持装置へ変更する可能性があります。
高齢者の場合も、現在は回転シートへ移乗できていても、将来は車いすのまま乗車する必要が出てくるかもしれません。
そのため購入者は、
- 今の車いすが入ればよいのか
- 次に予定している車いすも入りそうか
- 将来、移乗が難しくなっても使えるか
- 介助者が年齢を重ねても操作できるか
という点で迷っています。
実際の体験談にも、「次のバギーがどのくらい大きくなるか」「そのときの子どもの状態がどうなっているか」が分からず、購入時期の見極めが難しいという声があります。
将来のすべてを予測することはできません。
ただし、次に使用する予定の車いすや、医師・理学療法士・作業療法士から説明されている身体状況の変化については、購入前に販売店へ伝えておく必要があります。
福祉車両らしさと普段使いを両立できるか
福祉車両を検討していても、毎日の使用目的が介護や通院だけとは限りません。
通勤、買い物、家族旅行などにも使うなら、一般的なファミリーカーとしての使いやすさも重要です。
2025年の福祉車両調査でも、購入者が評価していたのは介助装備だけではなく、普段使いのしやすさでした。
一方で、福祉車両を購入しなかった人からは、価格やデザイン、日常利用のしやすさを求める声が寄せられています。
福祉車両だからといって、家族が車に合わせて生活する必要はありません。
介護専用の車を選ぶのではなく、介助にも対応できる家族の車を選ぶ
という考え方が大切です。
最終的な購入の決め手は何だったのか
体験談に共通していたのは、カタログを読んだだけでは購入を決断できなかったことです。
最後に背中を押したのは、実車を確認し、購入後の生活を具体的に想像できたことでした。
実際の車で介助動作を試せた
展示車を見るだけではなく、次の一連の動作を試してみることが重要です。
- バックドアを開ける
- スロープを出す
- 車いすを車内へ乗せる
- 車いすを固定する
- シートベルトを装着する
- 降車させる
- スロープを収納する
一つひとつの操作は簡単でも、毎日の通院や送迎で繰り返すとなると、わずかな使いにくさが大きな負担になります。
手動スロープは素早く展開しやすいという利用者の声がある一方、電動ウインチを使って力を入れずに乗車させられる点を評価する家族もいます。
どちらが使いやすいかは、介助者の体力や本人の状態によって異なります。
専門知識のある販売員に相談できた
福祉車両では、車の性能だけでなく、介助方法や車いすについて理解している担当者の存在も重要です。
ある家族は、最初に訪れた展示店では詳しい説明を受けられず、購入に至りませんでした。
その後、福祉車両に詳しい担当者から具体的な使用方法を教えてもらい、日常生活での使い方を想像できたことで購入を決めています。
販売店では、次のような質問をしてみましょう。
- この車いすを実際に載せられるか
- 将来、大きな車いすへ替えても対応できるか
- 介助者一人で操作できるか
- 納車時に操作練習を受けられるか
- 福祉装置が故障した場合はどこで修理するのか
- 車検や点検時に福祉装置も見てもらえるか
詳しい担当者なら、単に「載せられます」と答えるのではなく、本人の姿勢や介助者の動作まで確認してくれます。
福祉車両を買って生活はどう変わったのか
購入後の感想で多かったのは、「乗せ降ろしが楽になった」という物理的な変化だけではありません。
外出に対する家族全体の気持ちが変わったことが、大きなメリットとして語られています。
外出の準備が大仕事ではなくなった
一般車では、本人を座席へ移乗させ、車いすを畳み、荷室へ積まなければなりません。
福祉車両なら、車いすやバギーに乗ったまま乗車できるため、移乗と積み込みの負担を減らせます。
医療的ケア児の家族からは、以前は買い物のたびに降ろすのが大変で、子どもを車内で待たせることが多かったものの、バギーごと乗り降りできるようになり、家族で買い物へ行きやすくなったという声があります。
「出かけられるか」ではなく、
今日は出かけようと思えるか
という心理的なハードルが下がったのです。
本人が家族に遠慮しなくなった
乗せ降ろしに複数人が必要だった家庭では、本人が外出を頼むこと自体に遠慮を感じる場合があります。
福祉車両によって一人で介助できるようになると、本人も「家族に迷惑をかける」という気持ちを抱きにくくなります。
高齢の家族や配偶者を介助している購入者からも、外出が楽になり、家族でのドライブやお出かけを楽しめるようになったという声が出ています。
福祉車両は、単に介助者を楽にするための車ではありません。
介助される本人が、外出への遠慮を減らすための車でもあります。
車内でケアしやすくなった
大きな車両を選んだ家族からは、車内でおむつ交換ができるようになったという声もあります。
医療的ケアが必要な場合は、車内の広さだけでなく、
- ケア用品を置く場所
- 注入や吸引をする姿勢
- 電源やUSB端子の位置
- 後席の空調
- 車内の目隠し
- 緊急時に介助者が動けるスペース
も重要になります。
車いすが載ることだけを基準にすると、実際のケアで困る可能性があります。
後悔はなかった?買って初めて分かったこと
調査した体験談では、福祉車両を購入したこと自体への強い後悔は、あまり語られていませんでした。
ただし、「購入前にここまで確認しておけばよかった」という小さな誤算はあります。
操作に慣れるまで時間がかかった
福祉装置は、納車されたその日から誰でも完璧に使えるとは限りません。
高齢の母親を乗せるために福祉車両を購入した人は、納車直後はシートの操作や足の上げ方に親子とも慣れておらず、苦労したと語っています。
それでも、繰り返し使ううちに慣れ、外出は以前より大幅に楽になったそうです。
納車時には説明を聞くだけでなく、実際に本人を乗せて何度か練習させてもらいましょう。
可能なら、普段介助する家族全員が一度は操作したほうが安心です。
スロープを出せる駐車場が少なかった
車いす用駐車スペースは、一般の駐車枠より横幅が広く取られています。
しかし、後方からスロープを出す福祉車両では、横幅よりも車両後方のスペースが必要です。
利用者からは、車いす用駐車スペースでも前後方向が狭く、スロープを展開しにくいという声があります。
購入前には、車だけでなく、普段利用する場所も確認しましょう。
- 自宅駐車場
- 病院
- 学校や施設
- よく行くスーパー
- 立体駐車場
- 月極駐車場
バックドアを開け、スロープを最後まで出し、介助者が後方に立てるスペースが必要です。
夜間の操作が思ったより見えにくかった
利用者からは、夜間にスロープを出し入れするとき、車の照明だけでは足元が暗く、見えにくかったという声もあります。
日中の試乗では気づきにくい部分です。
暗い時間帯に利用することが多い家庭では、スロープ周辺や固定金具の位置を照らせるか確認しておきましょう。
車内の清掃が大変だった
医療的ケアが必要な人や体調を崩しやすい人を乗せる場合、車内で嘔吐してしまうこともあります。
購入者からは、シートや床の溝に汚れが入り込むと掃除が大変なため、洗いやすく、凹凸の少ない内装が欲しいという声が挙がっています。
購入前にはデザインだけでなく、
- 床を拭き取りやすいか
- シートの隙間が多くないか
- 汚れやすい部分をカバーできるか
- 車内で飲食や注入をした場合に掃除しやすいか
も見ておくと安心です。
荷物を置く場所が想像より少なかった
スロープ車は、後部スペースの多くを車いす乗車場所として使用します。
そのため、通常車では荷室として使える場所に、荷物を置けないことがあります。
特に家族全員で出かける場合や、医療機器を多く積む場合は、
車いすを載せた状態で、普段の荷物がどこに置けるのか
を確認する必要があります。
空の展示車を見ると広く感じても、車いす、介助者、医療機器、買い物袋を載せると、余裕がなくなることがあります。
後悔を減らすための試乗チェックリスト
最後に、購入体験談から分かった確認項目をまとめます。
車いすと本人の乗車姿勢
- 普段使用する車いすやバギーで試したか
- 本人が座った状態で頭上に余裕があるか
- 足やフットレストが車内に収まるか
- リクライニングした状態でも乗れるか
- シートベルトを正しく装着できるか
- 走行中に姿勢が崩れないか
介助者の動作
- スロープを一人で展開・収納できるか
- 車いすを無理なく車内へ誘導できるか
- 固定ベルトを付けやすいか
- 腰を深く曲げ続けずに作業できるか
- 雨の日でも操作できそうか
- 夜間に足元や固定部分が見えるか
家族の乗車と車内ケア
- 車いす乗車時に家族全員が乗れるか
- 介助者が本人の隣に座れるか
- 運転席から本人の様子を確認できるか
- 医療機器やケア用品を置けるか
- 後席まで空調が届くか
- 車内で必要なケアができるか
- 荷物や買い物袋を置く場所が残るか
駐車場所と日常利用
- 自宅駐車場でスロープを出せるか
- 病院や学校の駐車場で使用できるか
- 車体の大きさに運転者が無理を感じないか
- 介護以外の買い物や通勤にも使いやすいか
- バックドアを開けた状態で後方に立てるか
購入後のサポート
- 納車時に操作練習を受けられるか
- 福祉装置の点検を依頼できるか
- 故障時の相談先が近くにあるか
- 車検時に福祉装置も確認してもらえるか
- 将来、身体状況が変わっても使えるか
まとめ|購入者が選んだのは「家族が無理をしなくてよい車」
福祉車両を購入した家族は、最初から迷いなく買い替えを決めたわけではありません。
多くの家族が、
「まだ抱っこできる」
「今の車でも何とかなる」
「大きな車を運転するのは不安」
「高い買い物だから失敗したくない」
と迷いながら、情報を集めています。
そして最終的には、車種の人気やカタログの数字だけではなく、
- 本人が安全に乗れる
- 介助者が無理なく操作できる
- 家族に必要な座席数を確保できる
- 通院や買い物で日常的に使える
- 数年後も使い続けられそう
という、自分たちの生活に合った一台を選んでいました。
購入後には、操作への慣れ、駐車場所、収納、清掃など、使って初めて分かる小さな不便もあります。
それでも体験談からは、乗せ降ろしの負担が減っただけでなく、本人が家族への遠慮を感じにくくなり、家族で外出する機会が増えた様子が伝わってきます。
福祉車両を買うタイミングは、完全に抱っこできなくなった日とは限りません。
毎回の移乗で家族が無理をしている。
本人が外出を遠慮している。
通院や買い物へ行くこと自体が負担になっている。
そのような変化を感じ始めたときが、福祉車両を調べ、実車を試してみるタイミングです。
大切なのは、一番大きな車や高機能な車を選ぶことではありません。
本人が安心して乗れ、介助者が無理をせず、家族が気軽に出かけられる車を選ぶこと。
福祉車両の購入者が手に入れたのは、特別な装備が付いた車だけではなく、家族で出かけるための新しい選択肢だったのです。

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